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原賠制度見直し最終案を読む ㊥・・青山学院大名誉教授 本間照光さんに聞く

原賠制度の見直しを議論してきた政府の専門部会=8月6日、内閣府

制度いっそう骨抜き

 本間 専門部会のメンバーは電力会社などの業界代表、その関係者が集められています。私は“正当性なき審議”といってきましたが、3年前の2015年5月に始まった専門部会の1回目から、“日本の原賠制度は、諸外国と比較して事業者に重い責任を課している”“事業者負担に予見性がない”“事業者賠償の無限責任から有限責任化へ見直しを”などと、電力会社の賠償責任を限定する議論から出発しています。

責任と負担回避

 裏を返せば、「国策」の名による国民負担の無限化、被害者の受忍です。これまで20回の審議は、電力会社をはじめとする業界のための綱引きをずっと続けてきました。最終案は、電力会社にとって自分たちの主張通りになったといえます。福島事故から電力会社や関係者が学んだのは、自らの責任と負担を回避することだけだったわけです。

 原賠制度では、賠償措置額を超える部分は「国の援助」ということになっています。しかし、どういう援助をするかははっきりしていません。福島原発事故では原子力損害賠償・廃炉等支援機構がつくられ、そのトンネルを通じて、巨額の国費と国民負担が投入されています。原賠制度そのものが形ばかりの制度ですが、今回、それがいっそう骨抜きにされたとみています。

 ―見直さない理由づけをどう思いますか。

 本間 理由に挙げた事柄すべてが業界の利益のためのもので、しかも成り立たない議論です。事業者負担の予見可能性をうんぬんする前に、被害者、国民の生命・生活など予見可能性はどうなるのか、それをわきに置いての議論です。

成立しない議論

 被害者は賠償や家賃補助を打ち切られ、避難先から帰還するように強いられています。民間保険事業の引き上げ能力にしても、原発事故が国際的に受け入れられないほどのリスクだということです。諸外国と比べる前に、賠償措置額を大幅に超えた、世界の原発事故史上初めての福島の現実から学ぶべきです。現実に学び賠償措置額を大幅に引き上げる、諸外国も現在の賠償措置では賄えないことを学ぶべきで、諸外国に合わせて下げろという議論は成り立ちません。

 電力自由化で競争の見通しが立たないともいうが、それなら原発から手を引くべきです。成り立たない議論をつなぎ合わせて、事業者負担の予見可能性だけは確保するという構図になっています。

 (つづく)

(「しんぶん赤旗」2018年8月22日より転載)