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原賠制度見直し最終案を読む ㊤

青山学院大名誉教授 本間照光さんに聞く

業界の意向くんだ国

 原発事故に伴う賠償の仕組みを定めた原子力損害賠償制度の見直しを検討してきた政府の専門部会は8月6日に報告書の最終案をまとめました。政府は9月10日まで意見募集をした上で正式決定し、原賠法改定案を国会に提出する予定です。原賠制度に詳しい本間照光・青山学院大学名誉教授(保険論・社会保障論)に、その問題点を聞きました。

 (聞き手=三木利博)

 ―原賠制度見直しについての最終案をどう読みましたか。

 本間 原賠制度は1961年に制定され、被害者を保護するため、事故を起こした電力会社に対し、事故の過失・無過失にかかわらず賠償責任があるとする「無過失責任主義」「無限責任」が原則です。迅速かつ確実な被害者保護のために、事故に備えて電力会社に義務づける「損害賠償措置額」(法制定時50億円、現在1200億円)を設定しています。これは電力会社と保険会社間の責任保険か、電力会社と政府間の補償契約のどちらかで補償することになっています。

措置額記載無し

 最終案に、この賠償措置額をどうするのかといった記述がまったくないことに驚きました。これまで10年に1度の見直しを検討する会議では、引き上げるにしても現状維持にしても、それなりの説明があったんです。

 今回、東京電力福島第1原発事故後初めての見直しでした。無限責任といいながら、現行の最大1200億円の賠償措置額ではまったく手に負えないことが明らかになり、被害は今も進行中です。しかし、原発事故の1年前、2010年に600億円から1200億円にしたのを、事故後もそのまま押し通す。しかも、案文には記載しない。信じがたい案です。

 ―6日の専門部会で、原賠法を所管する文部科学省が法律の改定に向けた検討結果を口頭で報告しました。賠償措置額を見直さない理由について、事故後につくられた「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」で必要な資金確保ができるように措置が講じられているし、電力業界にとって予見可能性が低いとか、民間の保険市場の引き受け能力が厳しいと説明しました。

企業負担を限定

 本間 事業者の予見可能性とは、事業者負担の予見可能性のことです。賠償負担を限定して、経営の心配なく原発を稼働させたいということなのです。電力業界は掛け金の負担の増額はできないとし、保険業界は補償額の引き上げはできないと主張しました。自分たちの負担できないものを被害者と国民に回して、賠償措置額は引き上げない。最終案は、業界の意向、つまり加害者側の意向を政府がくんだものです。(つづく)

(「しんぶん赤旗」2018年8月21日より転載)