原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して利用するという政府の核燃料サイクル政策によって現在、日本はほぼ原爆6000発分に相当する約47トンの分離プルトニウムを保有しています。国の原子力委員会は、「プルトニウム保有量を減少させる」と明記した新たなプルトニウム利用の基本指針を発表しました。長年、核燃料サイクル政策を批判してきた舘野淳・元中央大学教授(核燃料化学)に聞きました。
(松沼環)
核燃サイクル破たん明確 原発そのものを考える時
――この基本方針をどう見ますか。
現在、日本では普通の原発(軽水炉)でプルトニウムを使うプルサーマル以外にプルトニウムを消費する手段がありませんが、原発1基のプルサーマルで消費できるプルトニウムは限られていて、再稼働は進んでいません。
再処理工場不要に
プルトニウム保有量を減少させるのであれば、プルトニウムを取り出す六ケ所再処理工場(青森県六ケ所村、2021年竣工=しゅんこう=予定)を運転させることは、必要なくなります。
電力会社としては、使用済み核燃料の直接処分さえ認めてもらえば再処理工場を動かすメリットはありません。再処理工場が技術的にうまくいかないというからです。再処理技術は、原発以上に完成していない。実際に動かして次々と故障が起きれば、再稼働の重荷になりかねない。
電力会社は再処理をする気がなかったのに、使用済み燃料を工場に引き取るのを条件に、政府が強引に推し進めてきたのです。
現在、原子力規制委員会が再処理工場の適合性審査をしています。審査は終盤ということですが、審査を通って事故が起これば規制委は何をしているという話にもなるでしょう。
そうなる前に、核燃料サイクルから撤退する政策転換が必要なのではないでしょうか。
技術の問題を言い出すと、誰の責任かという話になる。うまくいかなかったからというと、今まで何兆円も投じたのにということだからです。
――核燃料サイクル政策に与える影響はどうなりますか。
政府は、使用済み燃料を全量再処理する方針ですが、そうなら本当は、使用済みMOX燃料の再処理もしなくてはいけませんが、それを再処理するとは言っていません。どうするのか方針すらありません。
技術的行き詰まり
今のように、プルトニウムを軽水炉で使い続ければ、燃えないプルトニウムが増えてしまいます。
それを解決するのが実は高速増殖炉ですが、これは技術的に達成しそうもない。だから、核燃料サイクルは技術的にはもう行き詰まっているのです。
初期の原子力開発の本命は、消費した以上のプルトニウムを生むことから夢の原子炉と言われた高速増殖炉でした。高速増殖炉のためにもプルトニウムを取り出す核燃料サイクルが必要でした。だから、高速増殖炉「もんじゅ」を廃止した段階で、核燃料サイクルは継続する理由を失っているのです。
既にあるプルトニウムや高レベル放射性廃棄物の処分をどうするのか、議論が必要です。
しかし問題は、原発をそのまま動かしておいて、使用済み核燃料などダウンストリーム(下流)のことだけ議論しても収束しないでしょう。
ダウンストリームだけでは、国民的な合意が得られるはずがありません。今後、原発そのものをどうしていくのかの国民的な議論に基づいて、原発の廃棄物問題を議論する必要があります。
そういう意味では、一つの正念場にきているということは事実です。プルトニウムだけでなく、原発をなくすかどうか、ということが突き付けられています。
原子力委員会が7月31日に発表した「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」のポイント
―再処理等の計画の認可に当たっては、プルサーマルの着実な実施に必要な量だけ再処理が実施されるよう認可を行う。
―事業者間の連携・協力を促すこと等により、海外保有分のプルトニウムの着実な削減に取り組む。
―研究開発に利用されるプルトニウムは、当面の使用方針が明確でない場合、その利用または処分等について全てのオプションを検討する。
(「しんぶん赤旗」2018年8月12日より転載)