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大飯原発訴訟上告せず・・住民側 最高裁不当判決を回避 & 科学者会議福井支部が抗議声明・・福島事故無視し、司法の役割放棄

大飯原発訴訟上告せず・・住民側最高裁不当判決を回避

大飯原発訴訟の最高裁上告について会見する、(左から)坪田康男弁護団副団長、島田広弁護団長、中嶌哲演原告団長、笠原一浩弁護団事務局長=7月17日、福井市(写真は、山本雅彦)

 関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の運転差し止め訴訟で周辺住民らの請求を棄却し、運転を容認した名古屋高裁金沢支部の判決(内藤正之裁判長)に対し、住民側は7月17日会見を行い、上告しない方針を表明しました。全国の裁判で原発再稼働を認めない判決や決定を引き続き勝ち取るため、「不当な最高裁判決を出さない」ためだと強調しました。

 会見には、住民側を代表して中嶌哲演氏(76)=同県小浜市=と島田広弁護団長らが出席しました。

 中嶌氏は、最高裁が原発訴訟の担当裁判官に、原子力規制委員会の審査結果を尊重するよう発信したり、裁判長の突然交代など介入してきたと告発。上告しない方針は「最高裁に対する抗議と不信任の突きつけ」だと訴えました。

 同控訴審では、関電が地盤調査で、震源の深さを最大で15キロと想定しながら、地下1・5キロまでの調査にとどめ、地下数十メートルにおよぶ軟弱地盤も恣意(しい)的に評価。「基準地震動」の過小評価も判明しました。

 島田氏は「(二審で)裁判所が調べることを放棄したことがいっぱいある」と指摘。

 「どこかの裁判所で私どもが果たせなかった証人尋問をきちんとやり、解明すれば、安全神話が大きく掘り崩される」とのべ、規制委に追随する新たな安全神話も克服する展望が開けるとしました。

(「しんぶん赤旗」2018年7月18日より転載)


名古屋高裁金沢支部による住民請求を棄却した控訴審判決は、

福島原発事故の現実と教訓を無視し司法の責任を放棄した不当なものである

2018年7月10日 日本科学者会議福井支部

1 名古屋高裁金沢支部(内藤正之裁判長)は、2018年7月4日、福井地方裁判所(2014年5月21日・樋口英明裁判長)が関西電力株式会社に対し大飯原子力発電所3、4号機の運転禁止を命じた判決を取り消し、住民らの請求を棄却する決定(控訴審判決)を下しました。

2 福井地裁判決は、生命を守り生活を維持する権利を日本国憲法で保障する人格権の中核部分と位置づけ、これが侵害される具体的な危険が万が一でもあれば、大飯原発の再稼働は認められないと運転差し止めを命じました。同判決は、私たち日本科学者会議が明らかにした通り、福島原発災害が発生した事実を踏まえて原発の安全確率論が崩壊したことを示唆している。

 しかし、この控訴審判決は、現在の原子炉等規制法などの法制度は、原子力の研究、開発などを掲げ、原発を「一律に有害危険なものと禁止せず」、原発で「重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常に放出される危険などに適切に対処すべく管理・統制されていれば」その運転を認めているとし、その上で、「原発の運転に伴う本質的・内在的な危険があるからといって、それ自体で人格権を侵害するということはできない」と述べています。また、「我が国のとるべき道として原発そのものを廃止・禁止することは大いに可能」だと述べながら、「その当否を巡る判断は、もはや司法の役割を超え」と、「立法府や行政府による政治的な判断に委ねられるべき」としました。

 憲法に定められた三権分立(立法権・行政権・司法権)の目的は、権力の濫用を防ぎ、国民の権利を守ることです。しかし、福島原発事故という重大事故が起きたにもかかわらず、「具体的危険性が万が一でもあるのか」の判断を避け、行政、立法に追随することは、司法の役割を完全に放棄し、司法の存在意義をも否定するものです。

3 控訴審の口頭弁論で、当会議会員である原告が地震問題について内藤裁判長に質問したとき、同裁判長が、「控訴審での重要な点は地震からの安全性、とりわけ基準地震動に関心を持っている」と述べたため、基準地震動策定の妥当が最大の争点となりました。

 その結果、住民側がそれ以前に提出していた島崎邦彦元規制委員長代理の証人申請が認められ、証人尋問が実現しました。2017年4月、島崎氏は証人尋問で「基準地震動が過小評価されている」と証言しました。基準地震動策定の際に用いられる入倉・三宅式は、過去の地震データが少ない大飯原発で用いると、基準地震動の大幅な過小評価になることを過去の複数の地震の科学的検証結果をもとに指摘し、「政府の地震(調査研究推進)本部のレシピ改定にしたがった、より科学的で安全側に立った計算方法をとるべきである」と述べました。これは、纐纈一起東京大学地震研究所教授にも繰り返し支持されており、きわめて信用性の高いものです。

  その後も住民側は、基準地震動の問題について、物理探査学会元会長である石井吉徳氏をはじめ複数の証人申請をし、大山(だいせん)噴火(鳥取県)に伴う火山影響評価についても山元孝広産業技術総合研究所主幹の証人申請をしましたが、名古屋高裁はこれらすべてを却下しました。

  住民側は、関西電力が行った調査が極めて不十分で、かつ、基準地震動と噴火降灰量の過小評価は、関電が主張する「保守的な評価をしている」「不確かさの考慮をしている」では説明できないほどの大きな問題があることを指摘してきました。しかし、名古屋高裁はこれを無視し、最新の科学的知見に基づいて真摯に判断しようとせず、関西電力の主張を引き写しにしたに過ぎませんでした。これはもう司法が国民に対して責任を持つ「裁判」ではありません。

4 控訴審では、大飯原発の周辺住民の人格権が侵害される危険性について、「社会通念上無視しうる程度にまで管理・統制されている」と述べ、その根拠は、新規制基準が「各分野の専門家が参加し、最新の科学的・専門技術的知見を反映して制定されたもの」で不合理な点は無く、その新規性基準に適合しているという規制委員会の判断によるものです。

  しかし、新規制基準は、施設などの適合性を見るに過ぎず、規制委員会委員長自ら「安全を保証するものではない」(田中俊一元規制委員長、更田豊志規制委員長)と繰り返し発言しています。そのため、新規制基準に適合していても重大事故が起こる可能性(確率)は無視できません。一般的に「リスク=被害規模×発生確率」と定義され、福島原発事故が示しているように、原発事故の被害の代償は甚大ですから、たとえ確率が非常に小さくてもゼロでなければ、原発のリスクは天文学的数字となります。そのため、「社会通念上無視しうる程度にまで管理・統制されている」とする控訴審判決は、福島原発事故の教訓と現実を無視した非科学的暴論といわざるを得ません。

私たちは、以上のことから、国及び関西電力、福井県、おおい町に対し、大飯原発3、4号機の運転を停止することを強く要求します。