東京電力福島第1原発事故に伴う除染で集めた汚染土を、政府は公共事業で使う方針です。環境省が福島県二本松市で行おうとした道路造成に汚染土を利用する“実証事業”について、住民が反対の声を上げて“待った”をかけました。
(柴田善太)
“実証事業”の予定地は二本松市原セ5区。約3メートル幅の舗装されていない市道を長さ200メートルにわたって掘り起こし、同地区の仮置き場にある汚染土を埋めます。汚染土は1キロあたり約1000ベクレルといわれています。その上に汚染されていない土を厚さ約50センチかぶせ、アスファルトで舗装して、放射線量をモニタリングするというものです。市道は畑に面しており、脇に小川が流れ、田に水を引いています。
環境省が市議会に計画を報告したのは昨年12月5日。今年5月に測量を始め、秋以降の農閑期に市道埋め立てに着手する予定でした。環境省は一部住民の“了解”をもとに、12月末に原セ地区全体(1~8区)に回覧板で計画を示し、ことを進めようとし、業者と3億5208万円で契約を結びました。
住民は反対の声をあげ始め、市議会では日本共産党が環境省に撤回を求めるよう市に迫りました。国会では岩渕友参院議員が同省に撤回を求めました。
風評被害も
原セ5区にある教会の牧師、金基順(キム・キスン)さんは、「韓国は放射線に敏感。毎年1回、教会にくる青年たちがこなくなるかもしれない。汚染土は道路にまくのでなく、約束どおり、早く中間貯蔵施設へ運ぶべきだ」と話します。
原セ地区周辺の稲を使った家畜用飼料を扱う生産組合が取引先から購入を拒まれる風評被害も出ています。
市民共同センターとみんなでつくる二本松・市政の会の2団体は、▽政府は汚染土はすべて中間貯蔵施設搬入としていた▽道路が「汚染土の最終処分地」となる▽再生利用基準を原発事故前は1キログラムあたり100ベクレル以下としていたのに、8000ベクレル以下としたのは二重基準だ―と主張。事業中止を求める約5000人分の署名を今年5月に環境省に提出しました。
説明と違う
同月に開かれた原セ全区向けの説明会では「汚染土を『すべて中間貯蔵施設にもっていく』と説得して、仮置き場をなんとか確保したのに、どういうことか」など、批判が相次ぎました。
環境省は6月26日付で「原セ地区の皆様へ」という「お知らせ」を配布。「今年度の事業を再検討」「受注者との契約解除に向け調整する」と表明しました。同省中間貯蔵施設チームの山田浩司参事官補佐は「住民から懸念が出ているなかで、こういう対応をした」と話しています。
日本共産党の斎藤広二(ひろじ)二本松市議団長は「豪雨被害で道路が流される事態が各地で起きている。汚染土を埋めて、そういう事態になったら誰が責任を取るのか。原発被害から復興を目指しているなか、これを水泡に帰すような事業だ。白紙撤回を求める」と話しています。
安全性より便宜優先
野口邦和・元日本大学准教授の話 政府は原発事故当初、除染土は全て中間貯蔵施設に運ぶとして、住民にも説明してきたのに、“減量のため”に各地で利用するというのは通用しません。汚染廃棄物の再生利用基準も1キロあたり100ベクレル以下だったのを8000ベクレル以下に引き上げました。安全性より便宜優先の態度です。汚染土は中間貯蔵施設に運び、安全に管理すべきです。最終処分に向けた問題はその中で、冷静に議論していくしかありません。
環境省の「除染土壌再生実証事業」 中間貯蔵施設に貯蔵される最大2200万立方メートルと推計される除染土などを減らし、福島県外での最終処分を可能にするための事業と同省は説明。2016年12月に福島県南相馬市で実施。同県飯舘村、栃木県那須町でも実施しようとしています。
(しんぶん「赤旗」2018年7月11日より転載)