関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた1審判決(福井地裁)を取り消した、2018年7月4日の名古屋高裁金沢支部の判決要旨は次の通りです。
【判断基準】
1 原子力発電所の設備等について事故を起こす欠陥があり、周辺の環境に対して放射性物質の異常な放出を招く危険があるのであれば、どの範囲の住民が運転の差止を求め得るのかはともかく、人格権を侵害するとして、当該原子力発電所の運転差止めを請求することができる。その一方で、現在の我が国の法制度は、原子力基本法、原子炉等規制法などを通じて、原子力の研究、開発及び平和利用の推進を掲げ、原子力発電を一律に有害危険なものとして禁止することをせず、原子力発電所で重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常に放出される危険などに適切に対処すべく管理・統制されていれば、原子力発電を行うことを認めている。このような法制度を前提とする限り、原子力発電所の運転に伴う本質的・内在的な危険があるからといって、それ自体で人格権を侵害するということはできない。もっとも、この点は、法制度ないし政策の選択の問題であり、福島原発事故の深刻な被害の現状に照らし、わが国のとるべき道として原子力発電そのものを廃止・禁止することは大いに可能であろうが、その当否を巡る判断は、もはや司法の役割を超え、国民世論として幅広く議論され、それを背景とした立法府や行政府による政治的な判断に委ねられるべき事柄である。
2 原子力発電所における具体的危険性の有無を判断するに当たっては、設備が、想定される自然災害等の事象に耐えられるだけの十分な機能を有し、かつ、重大な事故の発生を防ぐために必要な措置が講じられているか否か、すなわち、原子力発電所の有する危険性が社会通念上無視しうる程度にまで管理・統制されているか否かが検討されるべきである。そして、原子炉等規制法の下、高度の専門的知識と高い独立性を持った原子力規制委員会が、安全性に関する具体的審査基準を制定するとともに、設置又は変更の許可申請に係る原子力発電所の当該基準への適合性について、科学的・専門技術的知見から十分な審査を行うこととしているのであって、具体的審査基準に適合しているとの判断が原子力規制委員会によってされた場合は、当該審査に用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか、規制委の判断に見過ごし難い過誤、欠落があるなど不合理な点があるか、あるいは具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に見過ごし難い過誤、欠落があるなど不合理な点があると求められるのでない限り、当該原子力発電所が有する危険性は社会通念上無視しうる程度にまで管理され、周辺住民等の人格権を侵害する具体的危険性はないものと評価できる。
【新規制基準】
3 本件発電所の安全審査に用いられた新規制基準は、各分野の専門家が参加し、最新の科学的・専門技術的知見を反映して制定されたもので、所定の手続も適切に踏んでいるのであって、手続面でも実体面でも原子炉等規制法を始めとする関係法令に違反していると認めうる事情はなく、内容において不合理な点も認められない。
【規制委の判断】
4 本件発電所の基準地震動及び基準津波は、最新の科学的知見及び手法を踏まえて策定されたものであり、そこで用いられた各種パラメーターは安全側に配慮して保守的に限定され、性質や程度に応じて不確かさが考慮されているほか、計算過程や計算結果に不自然、不合理な点は見当たらず、年超過確立も極めて低い数値になっていることからすれば、これらが新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとは認められない。
なお、基準地震動の策定に当たり、地震モーメントを求めるに際し用いられた入倉・三宅式について、地震動の事前予測に用いると地震モーメントが過小評価される旨の専門家の証言があるが、対象となる活断層の長さや幅を保守的に大きく見積もり、断層面積を地表地震断層の長さそのものから求めた数値より大きく設定することなどについて過小評価を防ぐことが可能であると考えられ、本件においても対象となる活断層の断層面積は、詳細な調査を踏まえて保守的に大きく設定されているから、1審被告(関電)の策定した基準地震動が過小であるとはいえない。
5 本件発電所の安全上重要な設備の耐震性、対津波安全性、異常の発生・拡大防止対策及び、重大事故等対策(火山灰対策を含む)、テロリズム対策等は、最新の科学的知見及び手法を踏まえて講じられており、地震、津波を始めとした外部事象による共通要因故障のみならず、偶発的な設備の単一故障を仮定しても設備の安全性が確保されているほか、重大事故等対策の有効性も科学的手法によって検証されるなどしており、IAEA(国際原子力機関)の国際基準等に反するともいえないのであって、これらが新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点は認められない。
【結論】
6 以上によれば、本件発電所の安全性審査に当たって用いられた新規制基準に違法や不合理の廉はなく、本件発電所が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断にも不合理な点は認められず、本件発電所の危険性は社会通念上無視しうる程度にまで管理・統制されているといえるから、本件発電所の運転差止めを求める1審原告(住民側)らの請求は理由がない。
以上
(2018年7月6日、山本雅彦)