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東日本大震災 復興予算から考える㊦・・「人間的復興」へ転換必要

愛知大学名誉教授 宮入興一さんに聞く

 ―復興予算の流用も話題になりましたね。

 被災地と関係のない沖縄県や高知県の国道整備、国税庁の首都圏庁舎や東京国立競技場の耐震化、さらにクールジャパンの推進、シー・シェパード対策費にまで使われました。「日本経済の再生なくして被災地の真の復興はない」というスローガンの下、経済成長・開発を優先する「創造的復興」という理念が生み出した典型的な例といえます。

 大企業支援にも

■復興予算の被災地との関連性に基づく分類

 復興予算流用の源となったのが11~15年度に約1・6兆円か組み込まれた「全国防災対策費」です。世論の批判を受け、12年度補正予算以降は全国防災対策費は学校等の耐震化、津波対応の事業に限定されました。額は減りましたが全国防災対策費は今も計上されています。

 会計検査院は11、12年度の復興予算の使途について、①東日本大震災の被災地の事業に使われたのが件数で65%、②全国的復興関連事業が25・2%、①と②の混在事業が9・7%と推計しています。(表)

 また、「国内立地補助金等」の名目で、当初予算の約8割がトヨタ、三菱電機、東芝などの大企業に流れ、94%が被災地以外に流出しました。ちなみにこの応募・選考は業界大手の野村総研に委託されました。さらに補助金受領37社から自民党に3・4億円の不法な企業献金が行われたことも発覚しました。

 大企業優遇の点では復興特別法人税は当初3年間の予定が、安倍政権の下で2年間に短縮され、一方で国民への復興特別所得税は10年間の期限が25年間へと大幅延長されました。

 ―「後の課題は?

 予防対策に重点化した防災計画を自治体と住民の協働でつくる▽現行災害対策関連法を整理・統合した「被災者総合支援法」の制定。10年間限定の復興庁でなく、災害全般を守備範囲に入れた恒久的組織をつくる▽「人間的復興」の土台となる生活・生業(なりわい)再建保障制度の整備▽全国レベルの恒久的な災害復興基金の創設▽災害対策での国の責任の明確化と災害予算の優先順位の引き上げ―などがあります。

 予算確保議論を

 財政面から強調したい一つは、「創造的復興」から「人間的復興」へと、予算を被災者の暮らしを支えるものに切り替えることです。

 15年度(16年3月)末までの「集中復興期間」の復興決算額を見ると、災害救助費関係は3・9%、被災者再建生活支援資金は1・1%、医療・介護・福祉・教育・雇用は4%で、合計約10%にしかすぎません。16年度からの「復興・創生期間」に入るとこの傾向は一段と強まっています。

 もう一つの強調点は、今後の大災害への予算の確保を考えることです。南海トラフ地震について、内閣府は以前、経済被害を約220兆円と想定していました。土木学会は発生から20年間の経済被害を1240兆円とする推計を発表しました。いずれにせよ、東日本大震災を上回る甚大な被害が出ることは間違いありません。

 経済格差が拡大し、貧困が深まる一方で膨大な余剰資金、資産が点在しています。国民合意を図りながら、富める者、組織の資産をどう活用するかを考え、「巨大災害が起こってから考える」のでなく、予算確保を進める必要があります。

 国民の信頼を失っている首相、官僚の下では難しいでしょうけれど、国民的議論を始めなくてはいけない時期だと思います。(おわり)

(「しんぶん赤旗」2018年6月12日より転載)