政府は東日本大震災の復興期間を10年間(2020年度末まで)とし、総額32兆円の予算で事業を進めています。財政学が専門で、雲仙普賢岳火山災害(1991年)、阪神・淡路大震災(1995年)の分析にも取り組んだ宮入興一・愛知大学名誉教授に、東日本大震災を財政面からどう見るか、聞きました。(柴田善太)
愛知大学名誉教授 宮入興一さんに聞く
―政府の復興策の全体的評価は?
阪神・淡路大震災で失敗した経済成長・開発優先の「創造的復興」の焼き直しになってしまったのではないでしょうか。「創造的復興」の特徴は、平時では進められない大型開発を一気に進めること、規制緩和により企業の活動を縛るルールを取り払うことです。
今回、ハードな大規模公共事業への重点投資、被災地復興と程遠い分野への予算流用、大企業向けの寄生的経費が多数混入されました。
これと対峙(たいじ)するのが、憲法に基づき「個人の尊重と幸福追求権」「居住権」「生存権」「教育権」「労働権」などが守られる「人間的復興」です。
被災者の生活・生業(なりわい)を支える予算は非常に少なく、「創造的復興」の下で、「人間的復興」は劣後に置かれました。
地方負担を軽く
―財政面の特徴は?
通常、国が交付金や補助金を出して、県・市町村が主体となって復興事業を進めるわけですが、事業費の100%が出るわけではありません。被害が大きければ地方の負担も大きい。地方自治体は地方債を発行してその分を捻出しますが、借金ですから、やがて返さなくてはいけない。阪神・淡路大震災でこれが復興の足を引っ張ることになりました。
今回、東日本大震災復興交付金、復興特別交付税、取り崩し型復興基金が新設され、特別会計が組まれました。
復興交付金で復興事業を行う。特別交付税で地方負担分をカバーし、実質地方負担ゼロにする。制度の隙間の問題には取り崩し型復興基金で対応するという枠組みです。
建設関連が9割
―前進したということですか。
制度創設は評価できますが、実際には大きな問題もあります。
復興交付金について、政府は「復興庁がワンストップで取りまとめる使い勝手のいい一括交付金」だと説明しましたが、実際の使い道は、基幹事業と呼ばれるハード面の強い5省40事業とそれに付随する効果促進事業となっています。基幹事業は、各省の補助事業として会計や報告も各省単位で行われ、復興庁は窓口・調整役にすぎない。被災地の要求に対して、各省のガードはかなり固い。被災自
治体から「使い勝手が悪い」「柔軟に復興策を考えても基幹事業にあてはまらない」という批判も起きました。
各省別の交付可能額をみると、国土交通省が85・4%、農林水産省が14・0%、この2省で99・4%とほぼ独占しています。ハードな建設事業の比率も約9割と圧倒的です。(表2)
復興特別交付税は何にでも使える一般財源という建前ですが、大方は復興交付金による事業とセットで、特定財源化しています。震災と明らかにリンクしている被災者への税金免除等の減収の補てんには使えますが、復興が遅れ地方税減収が続いている場合、普通交付税のように一般財源として減収補てんに使うことはできません。
16年度からは一部事業で被災自治体の復興費は一部自己負担となっています。
取り崩し型復興基金は、約3000億円と金額枠が少ない、行政の内部基金のようになってしまい民意の反映が少ない、国の予算措置だけでできていて法的裏付けがないという問題点があります。(つづく)
(「しんぶん赤旗」2018年6月10日より転載)