日立製作所が英国で進める原発新設計画をめぐり、日立は英政府との交渉を本格化させています。原発輸出は、安倍晋三政権が成長戦略と位置付けてきました。数兆円規模の巨額の事業でありながら、失敗すれば日英両国民にツケが回ります。危険な原発輸出に反対するため、英国の現地住民が来日し、計画の中止を求めました。(斎藤和紀)
企業リスク国民に転嫁
日立は、英ウェールズのアングルシー島に原発を2基建設する予定です。2020年代前半に運転開始することを目指しています。
安全基準の強化などで事業費が当初の2兆円から3兆円規模に膨らむ見通しになりました。もはや民間企業だけでは手に負えない巨額の事業となったため、日立は日本政府に対し、政府系金融機関を通じた支援を求めていました。
5月3日、日立の中西宏明会長(経団連会長)が、メイ英首相を訪問し、支援の強化を要請。これを受け、英金融機関や英政府が2兆円超を融資し、政府の債務保証も付ける支援策を、同政府が提示したもようです。
日立は6月5日、英政府の回答を「協議の成果などを確認するものとして歓迎する」とし、交渉を継続すると表明しました。しかし、巨額の建設費用を稼働後の電力販売で回収できるようにするため、電力買い取り価格の引き上げを英政府に求めています。
また日立の100%子会社である英原発企業、ホライズン・ニュークリア・パワーの株式保有比率を引き下げ、非連結化することを事業継続の条件に挙げています。巨額の損失が出た場合に、本社への影響を抑えるためです。原発を建設するかどうかは、19年までに決定するとしています。
世耕弘成経済産業相は「可能性として、日本政策投資銀行や国際協力銀行、日本貿易保険などを通した支援が想定される」(5日、記者会見)と述べました。いずれも政府が全額出資する金融機関です。
事業に失敗すれば、政府系金融機関が多大な損失を被り、ツケは国民に回ります。一方で日立はリスクを負いません。国民生活より企業利益を優先した、ゆがんだビジネスです。
”緊縮中に公金出すな”
こうした原発輸出に抗議するため、英ウェールズの地元住民団体「PAWB」のメンバーが、5月下旬に来日しました。国際環境団体「FoEジャパン」とともに、福島県や経済産業省、日立本社などを訪問しました。PAWBは原発計画が浮上した1988年に設立され、地元アングルシー島で勉強会やデモなどを行い、脱原発を求めてきました。
5月29日、東京都千代田区にある日立本社前。PAWBとFoEジャパンのメンバーらが、日立が進める原発輸出に抗議しました。両団体は日立本社との意見交換を要請していましたが、「現地法人が周辺住民に説明している」との理由で断られたといいます。
元獣医師のロバート・デイビーズさんは、「私たちの美しい島に原発を建てないでください。日本の皆さんも、日本政府に原発に公的資金を使わないよう言ってください」と訴えました。アングルシー島は農業や観光業が主な産業です。美しい景観から保養地として知られています。欧州連合(EU)から保護種に指定されている野鳥の保護区があるといいます。
また両団体は、日立の原発輸出に公的資金で支援しないことを求める署名を37力国、5823人から集め、経済産業省に提出しました。後日、国会内で行ったセミナーで、デイビーズさんは「英政府は緊縮政策を導入し、病院や学校などの住民サービスの予算を削減してきました。原発に膨大な資金をつぎこむ余裕はありません。絶対に反対です」と主張しました。
教師のリンダ・ロジャーズさんは、福島県を訪れ、汚染された土を並べる仮置き場を見て衝撃を受けたといいます。「日立には再生可能エネルギーの技術を使ってほしい。なぜならそれは未来を保証してくれるから」と語りました。
(「しんぶん赤旗」2018年6月9日より転載)