Q 東京電力福島第1原発事故の汚染水問題の特集(3月14日付)で「トリチウム」の解説がありました。なぜトリチウムができるのか、崩壊して何になるか、ベータ線とは何か、人体への影響なども説明してください。(長野県・元教員ほか)
ウランの核分裂で生成
A 「トリチウム」(3重水素)は、原子核の陽子が1個だけの水素の仲間(同位体)の一つです。原子核に中性子をもたない水素、中性子1個をもつ重水素に対して、陽子1個と中性子2個からなるのがトリチウムです。
国・東電の資料によると、原子炉での主なトリチウム生成源は、燃料のウランが核分裂によって3個の破片に割れる「三体核分裂」と呼ばれる反応です。制御棒に含まれているホウ素10への中性子照射、原子炉水に含まれる不純物(リチウム6など)への放射線照射でも生成します。
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トリチウムは、中性子の一つが陽子に変わる「ベータ崩壊」を起こし、安定なヘリウム3(陽子2個と中性子1個)になります。半減期は12・3年です。
このとき放射される電子の流れが「ベータ線」です。トリチウムが出すベータ線のエネルギーは低く、紙1枚で遮へいできます。そのため外部被ばくは問題にならず、人体への影響としては、体内に取り込んだときの内部被ばくを考慮します。
自然界では、宇宙から地球に降り注ぐ宇宙線が大気中の分子にぶつかったときに生成します。一方、過去の大気圏内核実験で大量のトリチウムが放出されて環境が汚染され、日本での降水中に含まれるトリチウムが1リットル当たり100ベクレルを超えた時期もありました。現在の天然水は同1ベクレル程度です。(ベクレルは、1秒間に崩壊する原子の個数を示す放射能の単位)
現在、福島第1原発の汚染水タンクにたまっているトリチウム汚染水の濃度は同数十万~数百万ベクレルです。
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私たちの体にも天然のトリチウムはあります(体重65キログラムで10Oベクレル程度)。体内に取り込んだトリチウムの半分が体外に排出される期間(生物学的半減期)は、水の形態で10日程度、有機物の形態で40日程度といわれています。
世界保健機関(WHO)の飲料用水質ガイドラインの指標は1リットル当たり1万ベクレル。この濃度のトリチウム水を毎日2リットル、1年間飲み続けた場合に追加的に受ける放射線量は0・13ミリシーベルトです。ちなみに大気中や大地の放射性物質、放射性のカリウムや炭素を含む食品などによる自然放射線の年間被ばく量は、日本の平均で2・1ミリシーベルト。そのうち食品からの内部被ばく量は0・99ミリシーベルトです。
(「しんぶん赤旗」2018年5月6日より転載)