いわき市民訴訟原告 鈴木範子さん(63)
福島県いわき市の鈴木範子さん(63)は、宮城県石巻市出身です。高校まで石巻市で過ごし、仙台市で看護の勉強をして資格を取り、その後、いわき市で看護師として30年間働きました。
小学生のころ病気がちだったことや、おばが看護師だったことなどから看護師になりました。
国と東京電力に原状回復と損害賠償を求めたいわき市民訴訟の原告です。
原発事故の訴訟に加わったのは、健康や命を大切にする看護師の仕事と原発は相いれないと考えるからです。
■子どもたち心配
東日本大震災の際、東北電力の女川原発(宮城県女川町、石巻市)も、東京電力福島第1原発と同じクラスの津波に襲われました。外部電源5系統のうち4系統が遮断、原子炉建屋が浸水して冷却ポンプも停止、重大事態に“紙一重”の状態になったのです。
2011年3月11日の直後、鈴木さんは、震災で甚大な被害をうけた石巻市の実母や弟たちとは連絡がとれませんでした。連絡がとれたのは1週間後でした。
いわき市では、原発事故が起きると市民の多くが避難しました。しかし、鈴木さんは、90歳近い義理の母を置いて避難することはできずに、いわき市にとどまりました。
20歳代の娘が2人います。避難しなかったことがこの子たちに将来どんな影響があるのか、それともないのか―1番の心配ごとです。
看護師の鈴木さんにとって、子どもたちの健康も心配です。
「18歳までの医療費無料化は県の制度でなく、原発を推進してきた国の制度にしてほしい。国は子どもの健康管理に将来にわたって責任を持ってほしい」
医療生協の非常勤理事を務める鈴木さん。健康状態を問診する「街角健康チェック」に取り組んでいるなかで、気になることがあります。避難者の中に、展望が見えず、自暴自棄になりアルコール依存症になっている人が増えていることです。子どもたちも自由に遊べずに肥満傾向になっています。
■安全な場所ない
いわき市民の間にギスギスした人間関係がうまれていることも気になります。「避難者はどこから避難してきているのかも言えない。隠さざるを得ない事態におかれています」と悲しみます。
「事故からまだ7年」。収束などと程遠い福島の現実にいら立つ鈴木さん。「国と東電には法的責任があると裁判ではっきりさせたい」と法廷の傍聴に通っています。「日本列島のどこも安全なところはありません。原発再稼働をさせてはなりません」(菅野尚夫)
(「しんぶん赤旗」2018年4月18日より転載)