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壊された信用 賠償を・・醸造酢製造7代目 太田実さん東電に怒り(福島・須賀川)

原発事故の打撃今も・・自慢の「飲める酢」、個人客が1割に

自慢の「飲める酢」造りが軌道に乗ったとき襲いかかってきた原発事故で、売り上げが4割落ち込んだ福島県須賀川市の醸造酢製造・販売店。社長の太田実さん(67)は、「つくり上げた信用がぶち壊された。東京電力にはその観点の謝罪がない」と賠償を強く求めるとともに、「それでも良いものを造りたい」と決意を新たにしています。

(福島県・野崎勇雄)

「さらに良いものを造りたい」と醸造用タンク前で話す太田さん=福島県須賀川市

 2メートルを超す高さの醸造用タンクなどがずらり並ぶ本格醸造酢造りの「太田酢店」。江戸時代後期から続く醸造業者で、太田さんが7代目です。

 第2次世界大戦前後の食糧統制のため約20年間の休止を経て、祖父の死により跡を継いだばかりの父が1950年代初めに醸造酢復活を志願。東北の主な蔵をまわり、指導を受けるため東京へ通い、四国にも行き、試験、仕込みに明け暮れました。64年からは「飲める酢」が最大目標に。「良いものは良い原料から」と1等米で試作したところ成果は歴然で、精米歩合によって酢質が変わることも確認しました。

 太田さんは大学で醸造を学んだ後、父のもとで働き、リンゴ酢でも応用し、苗木から育成した契約栽培の樹上完熟品を使うなど、さらに工夫を重ねてきました。

知人が抗議自殺

原料や酢造りが安定し、先の見通しも立って一息ついたときに起こったのが、東日本大震災・東電福島第1原発事故でした。

 福島県の農産品が次つぎに入荷停止を告げられ、太田さんの知人で地域のリーダーだった農民は東電に抗議し、自殺しました。

 太田さんが長い歳月をかけて育ててきた、「こだわりの逸品」の信用は一気に崩れ、東京を中心に全国約2000人にのぼった個人客が1割へと急落。全体で原発事故前から売り上げ4割削減に追い込まれました。

 太田さんは「大口は私も出向いて何とか影響を少なく食い止めたが、個人客はいっせいに離れた。加害者の東電に信用を壊された」と話します。

 東電による福島県の商工業損害賠償では、年間逸失利益の2倍相当分を一括賠償することを大前提に、足りない分は追加賠償するとしています。2倍の賠償をしたが、計算してみると足りなかったという人には超過分の請求書を直接送付するとしています。ところが、2倍相当分を請求しても値切りや打ち切られる人が多く、その人たちには東電から請求書は送られていないということが、問題になっています。

 太田さんもその一人で、民主商工会と相談中。「東電は2年分出さない理由をはっきり言わない。これでは、東電の責任を放棄し、県民、業者の自己責任でなんとかしろと言っているようなもので納得できない」と言います。

変わらぬ地元愛

太田さんは原発事故前まで、米酢もリンゴ酢も原材料は地元産を使っていました。今は地元産のほか他県産も導入。しかし、地元産への愛着は変わりません。「原発事故で有機農業という言葉が忘れ去られたかのようだ。農家から新しい農業資材の開発を頼まれている。自分の酢の宣伝でなくて農業の話ばかりすると家族から笑われるが、農業がよくなってこそのわれわれの仕事です」といいます。

(「しんぶん赤旗」2018年3月12日より転載)