東京電力福島第1原発事故から丸7年がすぎました。今もなお新たに増え続けている放射能汚染水が、敷地内のタンク群にたまっています。処理途中の汚染水や建屋滞留水を含めると、総量は約113万トンに上ります。出口の見えない汚染水問題。国と東電の混迷が続いています。
1日百数十トン、タンク計画2020年まで■海洋放出計画に地元は反対
原発の敷地には、造り続けたタンクが約900基ひしめきます。雨の少ない今の時期でも、1日当たり百数十トンの汚染水が増えています。
処理設備でも放射性物質トリチウム(3重水素)を取り除くのは困難なため、行き場のない高濃度のトリチウム汚染水が現在約85万トンたまっています。しかし、東電は2020年末までのタンク計画(総容量約137万トン)しか示していません。
◇タンク逼迫
「時間は残されていない。今年〈2018年)、意思決定できなければ、新たな困難を迎えることになるだろう」。原子力規制委員会の更田豊志委員長は今年1月、福島県を訪れ地元首長との意見交換でこう述べました。トリチウム汚染水を希釈し、海に放出するよう東電に求めてきた規制委。更田氏は海洋放出のための準備に2、3年はかかると指摘し、早く方法を決めるべきだと強調しました。
タンクは逼迫(ひっぱく)しているのか。21年以降の増設計画について、東電福島第一廃炉推進カンパニーの増田尚宏プレジデントは今月(3月)1日の記者会見で「タンクを造る場所に非常に困っている」とする一方、「凍土壁」(陸側遮水壁)などの汚染水対策により、タンク容量に「少し余裕が出てきたと思う」と述べました。
トリチウム汚染水をめぐっては、国の汚染水処理対策委員会の作業部会が16年に海洋放出や地下埋設など五つの処分方法の技術的評価をまとめ、現在も、小委員会で検討が続いています。
しかし汚染水の扱いについて、国や東電への不信感や風評被害の懸念が大きく、漁業関係者をはじめ地元は、海洋放出に強く反対しています。
規制委は早くから、トリチウム汚染水のタンク貯蔵は漏えいリスクがあるとして、海洋放出を主張。一方の東電は、あいまいな態度を続け、国の議論を踏まえた上で判断するという姿勢です。
ところが、国の小委員会は16年11月から7回開かれたものの、取りまとめが出る見通しは立っていません。
◇発言の応酬
こうした中、海洋放出に前のめりの規制委は昨年(2017年)7月、東電の新経営陣との意見交換で「国の委員会が結論を出しかねていることに東電は救われている。東電こそ『われわれはこうすべきだと考えている』と表明するべきだ」と迫りました。
その数日後、東電がトリチウム汚染水の海洋放出を判断したとの一部報道に、地元が反発。東電は「最終的な方針を述べたものではない」と否定し、規制委の田中俊一委員長(当時)の見解を盾に弁明するなど火消しに追われました。
これに対し、田中氏は「私の名前を使ってああいうことを言ったのは、本当にはらわたが煮えくり返る」と応酬しました。
◇現状直視
トリチウム汚染水の貯蔵は「リスク」があるという理由で、海洋放出を主張してきた規制委。先月、タンク貯蔵について「廃炉作業に与える影響が大きいことがポイントだ」として、「リスクではない」と位置付けを変更しました。議論の前提さえ崩れています。
タンク増設の敷地確保が難しいという東電も、当事者意識が欠如しています。トリチウム汚染水の処分方法が決まらなければどうなるのか。この疑問に、東電から返ってきた答えは、「タンクを造り続けるしか選択肢がない」。そう言いながら、敷地確保に緊迫感を持って取り組む様子は見えません。
トリチウム汚染水をめぐる議論は、混迷し、膠着(こうちゃく)状態が続いています。原発事故の収束がいかに困難であるかを示しています。廃炉作業には最大の難関となるデブリ(溶け落ちた核燃料)の取り出しも待ち構えています。国や東電は原発の再稼働ではなく、廃炉作業の現状に真剣に向き合うべきです
高濃度の2次廃棄物も
福島第1原発が抱えている問題はトリチウム汚染水だけではありません。汚染水の処理によって生じる泥状の廃棄物「スラリー」や、放射性物質の吸着材・ろ過材など「2次廃棄物」の処分方法が決まっていません。もともと汚染水に含まれていた放射性物質が濃縮されているため、極めて高線量で、水素発生のリスクがあるものもあり安全に保管する必要があります。
東電の資料によると、多核種除去設備(アルプス)で処理後に残るスラリーなどの総量は約7000立方メートル。約2700基の容器に入れられて、屋外に設置したコンクリート製の保管設備に収めています。スラリーに含まれる放射性物質濃度はストロンチウム90で1リットル当たり約400億ベクレルと非常に高濃度です。
トリチウムとは
トリチウム(3重水素)は、水素の放射性同位体で、陽子(水素の原子核)1個と中性子2個からなります。ベータ線を放出して崩壊します。半減期は約12年。質量は水素の3倍ですが、同じ化学的性質をもちます。トリチウム水(HTO)は、水(H2O)分子の水素1個がトリチウムと置き換わったものです。
タンク内のトリチウム濃度は、東電によると1リットル当たり数十万~数百万ベクレルに上ります。国の放出基準(告示濃度限度)は1リットル当たり6万ベクレルで、WHOの飲料水水質ガイドラインは同1万ベクレルです。
トリチウムは、通常の原発でも外部に放出しており、事故前の福島第1原発のトリチウム放出量は年間で約2兆ベクレル(原子力施設運転管理年報)。現在、タンク内のトリチウム量は、事故前の年間放出量の数百倍になる計算です。
(「しんぶん赤旗」2018年3月14日より転載)