WWF(世界自然保護基金)ジャパン気候変動・エネルギーグループ長 山岸 尚之さん
気候変動の現状
つい最近も米・カリフォルニア州で大火災が起きましたが、やはり背景には異常乾燥がありました。産業革命以降、世界の平均気温は約1度上昇しています。オーストラリア北東部に広がるグレートバリアリーフのサンゴの白化や、ヒマラヤの氷河溶解による洪水など、すでに世界各地で影響が出ています。
気温上昇が2度を超えると、食糧生産にも影響が出るとされています。“海の熱帯雨林”と呼ばれるサンゴは海洋生物のすみかですから、漁業もダメージを受けます。
今回のCOP23は、島しょ国の筆頭格フィジーが議長国を務めることで、温暖化の被害者の声が高まる会議になるのではないでしょうか。
温暖化では社会的に最も弱い人たちがまず被害を受けます。さらに、米国や中国に比べれば、フィジーのような島しょ国のC02排出量はほとんど問題になりません。そんな人たちが海面上昇で国土を失い、キリバスでは国民を移住させてくださいと今から他国に頼んでいる、圧倒的な不平等があります。
今回のCOPでフィジーのような国の声を国際社会が拾わなければなりません。
米国の責任重い
米国は今でも世界第2位の排出国で、歴史第1位です。いわば最も温暖化に責任が重い国の政府が、パリ協定から離脱するのはきわめて無責任です。
米国にも積極的なところと消極的なところがあり、国内でそのせめぎあいが起きています。政府の姿勢は残念ですが、自治体や企業が「われわれはやる」と言っているのは心強い。悲観する必要はないと思います。
石炭火力増やす
日本の石炭火力を増加させる政策は問題です。「安定供給」という錦の御旗の下に、安い石炭火力発電を増やそうとしています。今、42基の火力発電所が建設計画中ですが、すべて稼働すれば膨大なC02排出量になります。
1990年比でCO2を18%削減という日本の目標は、国際的にも不適切と指摘されています。しかし増設が進めば、その目標も達成できないでしょう。
省エネと石炭火力の減少のためには、カーボンプライシング(炭素の排出量への価格付け)の導入などが必要です。炭素税や排出量枠の導入で、企業にとってC02排出がコストになる仕組みをつくるのです。
日本にはすでに石油石炭税と地球温暖化対策税がありますが、1トンあたり300円弱とあまり効果が望めない額です。1万円前後になれば、企業は死ぬ気で削減します。
世界では企業や自治体の役割が台頭しています。10年ほど前は、温暖化対策はコストでしかないという認識が大半でしたが、近年、これこそビジネスチャンスではと考えるところが増えています。彼らも慈善事業家ではありませんが、そんな彼らにとっても、再生可能エネルギーやパリ協定の目指す脱炭素が ″勝ち馬″ということです。
ただ日本には、この雰囲気がなかなか伝わっていません。今もまだ否定的な声が多い。そこをどう変えていくか、課題です。
歴史的排出量
その国が過去に排出した温室効果ガスの量。温室効果ガスの多くを占めるCO2は安定した元素で、一度排出されたものの多くは大気中に存在し続ける。
(「しんぶん赤旗」2017年11月2日より転載)