「原発を止め続けると国富が流出する」。国民の抵抗で原発の再稼働が進まないもとで、原発推進派は国民にこのような脅しをかけていました。しかし実際には原発がフル稼働していた時期よりも、火力発電の燃料となる原油や液化天然ガス(LNG)などの輸入額は減少しています。
(清水渡)
政府キャンペーンは破綻・・再稼働を狙うが
政府と電力各社が狙う原発の再稼働が進まない状況がつづいています。2011年3月の東日本大震災と東京電力福島原発の事故をきっかけに、原発ゼロを求める運動が大きく広がったためです。原発事故以前の10年には54基が稼働していた原発は、14年に稼働ゼロとなり、現在も関西電力高浜原発(3号機、4号機)、四国電力伊方原発3号機、九州電力川内原発(1号機、2号機)の5基しか稼働していません。
原発が稼働できないもとで、なんとしても再稼働を進めたい「原発利益共同体」は「原発を止め続ければ、国富が流出する」との大キャンペーンを張りました。つまり、原発が止まっているもとで電力需要にこたえるために、火力発電所の稼働率を上げれば、燃料費増加で輸入額が増えるというのです。実際、経済産業省が14年7月に公表した資料では13年度に3・6兆円の燃料費増加となると試算していました。
4兆円輸入額減
火力発電所の燃料として使われる諸原料について、日本全体の輸入動向を財務省の貿易統計で調べてみました。火力発電所で使われる燃料は主に原油・重油、液化天然ガス、石炭(一般炭)です。この3者の輸入額は10年度に14・3兆円だったのにたいして、16年度は10・5兆円でした。3兆円を超える「国富の流出」どころか、4兆円近くも安くついているのです。
火力発電所の燃料の増加が日本の貿易に与える影響が小さかったのには二つの理由があると考えられます。
一つは火力発電所で使用される燃料は、輸入される燃料のごく一部にすぎないことです。
原発が3基しか稼働していなかった15年度の場合、日本のLNG輸入量のうち火力発電に使われたのは62・6%、同様に石炭は52・4%を占めています。しかし輸入総額は石炭が1兆円前後、LNGは3兆〜7・5兆円程度で推移しており、原油及び粗油の輸入総額の約1割5分(石炭)、半分程度(LNG)にすぎません。一方、火力発電所に使用された原油・重油は1277・7万キロリットルでした。この年輸入された原油及び粗油1億9899・3万キロリットルのうち、わずか6・4%でした。
燃料単価が左右
もう一つの理由は、輸入額により大きな影響を与えるのは、輸入量よりも燃料の単価だということです。
貿易品の輸入単価(円建て)は為替動向と商品単価の変動によって左右されます。10年度の原油および粗油の輸入量は2億1501・3万キロリットルで、輸入額は9・76兆円でした。一方、16年度の輸入量は1憶9000・6万キロリットルで輸入額は6・18兆円です。輸入量の減少以上に輸入額が減ったのです。この間に為替相場が1ドル=85・7円(10年度平均)から1ドル=108・4円(16年度平均)へと1・26倍もの円安が進行したものの、16年度の原油価格が10年度に比べて56・9%も下落したためです。
同様にLNG価格は62・1%、一般炭価格は71%に下落した結果、輸入額が減少しています。原発停止による火力発電の使用増加をもって、「国富の流出」と攻撃することがいかに筋違いなのか、明らかです。
また、輸入額の増加を「国富の流出」というのであれば、「異次元の金融緩和」などで円安を加速したアベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)こそが、輸入額を増加させたという点で、「国富の流出」に一役買ったといえるでしょう。
(「しんぶん赤旗」2017年9月9日より転載)