小高に引っ越してもうじき2ヵ月になります。
本屋「フルハウス」を開店する計画を実現するために、中古住宅付きの土地150坪を購入しました。
当初は11月オープンの予定だったのですが、開店資金を集めるためにある程度時間がかかるので、いっそのこと地元小高産業技術高校の入学式の日に合わせようということになりました。
つまり、まだ半年先の話なのですが、毎日誰かしら自宅を訪ねてきます。
今日は、小高出身で仙台で暮らしているという60代の夫婦が訪ねてきて、「なにか出来ることがあれば手伝わせてほしい」と言ってくださいました。
紫蘇ジュースを作って持ってきてくださった70歳の女性には「東京に避難している視覚障害者の同級生が、本屋の開店に合わせて小高に帰ると言っているので、何月何日に開店するか教えてください」と尋ねられました。
ご近所の方も、毎日のように差し入れを持ってきてくださいます。
さっきは、70代の女性が家庭菜園で作ったというトマト、ナス、ピーマン、シシトウ、スイカを持ってきてくださいました。
夕飯前にきゅうりの古漬けを持ってきてくださった方、朝、ゴーヤをハサミで切って持ってきてくださった方、わたしが昆虫好きだということを知っていて、道端で死んでいたアゲハチョウをティッシュペーパーでくるんで持ってきてくださった方もいます。
最初のうちは、玄関のチャイムが鴫ると、「今度は誰だろう?」と身構えていましたが、最近では寝巻き同然の格好でも、とりあえず「はーい!」と返事をして(急いで着替えて)扉を開けます。
帰還住民2000人の旧「警戒区域」で本屋を開く-、医師で作家の鎌田實さんには「日本一客が来ない本屋になるのではないか」と心配されましたが、わたしは意外と(本が売れるかどうかは別にして)立ち寄るひとは多いのではないかと思っています。ここ小高には、取り立てて用事はなくても、ちょっと立ち寄る、ちょっと覗いてみるという場所が無いのです(原発事故によって無くなってしまった)。
日々の暮らしの中にささやかな「ゆとり」や「のりしろ」や「彩り」をもたらすことができるような店づくりやイベントを考えたい、と思います。
(ゆう・みり作家写真も筆者)(月1回掲載)
(「しんぶん赤旗」2017年8月28日より転載)