安倍晋三政権が閣議決定をめざしているエネルギー基本計画案は、原発について安定していて、運転コスト(費用)が低く、温暖化対策としても優れている、理想のエネルギー源と描きます。実態は、全く逆さまです。
(佐久間亮)
本当に安定的か?
ポイント
・福島事故で計画停電
・昨年(2013年)9月全原発停止
・設備利用率は約7割
原発が不安定なエネルギーだということは、東京電力福島原発事故によって計画停電が起こり、昨年9月末以降再び全原発が停止していることからも明らかです。
しかも、不安定なのは福島事故後だけではありません。
人間の不正や自然災害によって、原発はたびたび停止してきました。そのため、政府が目標とする設備利用率90%に対し、実際には85%を超えたことは一度もなく、80%を超えたのも数年だけです。1975年以降の利用率は平均7割にすぎません。(グラフ)
2003年には前年のトラブル隠しが引き金となり、東電の全原発17基が停止。07年の新潟県中越沖地震では、東電の柏崎刈羽原発が長期にわたって運転不能になりました。原発が安定した電源と言えないことは、事実が証明しています。
低コストなのか?
ポイント
・補助金で安く見せる
・廃炉費用など不透明
・隠される事故の費用
原発が他のエネルギーと比べ安上がりだという議論には、いくつものごまかしがあります。
原発には、研究費用や立地自治体への交付金として、毎年巨額の税金が使われてきました。その額は2011年度だけで3200億円に上ります。こうした税金による「補助金」を加えると、原発の発電費用は、大事故が起きない場合でも、火力や水力と比べ高くなります。技術が確立されていない、使用済み核燃料の処分や原発廃炉のための費用は、実際どれくらいかかるのかも分かっていません。
エネルギー基本計画案は、使用済み核燃料からプルトニウムやウランをとりだし、再び燃料として利用する核燃料サイクルを「着実に推進」するとしています。総事業費は、政府の試算で19兆円。実際は43兆円以上との指摘もあります。
原発事故によって発生する国民負担も隠されています。福島事故による損害賠償額は、少なすぎると批判されている原子力委員会の試算でも5・9兆円。除染費用は飯舘村1村で約3200億円に上ります。
温暖化の対策に?
ポイント
・激増した温暖化ガス
・省エネ・再エネ圧迫
・石炭火発推進を明記
原発頼みの温暖化対策が成功した試しはありません。原発頼みの政策が、省エネルギー社会の実現や再生可能エネルギーの抜本的普及の障害となってきたからです。
日本は、京都議定書で温室効果ガス排出量の6%削減(1990年比)を公約したものの、2012年度の排出量は逆に6・3%増となりました。
安倍政権は昨年、20年までに20%減という前政権の目標を投げ捨て、約3%増の目標を発表しました。原発が稼働すればさらに4~5%減らせるとしていますが、20%減には遠く及びません。
さらに、基本計画案は、温室効果ガスを大量に排出する石炭火力発電の推進を掲げています。
石油危機後、日本は石油に代わるエネルギーとして原発と石炭火発をセットで進めてきました。その結果、80年代以降石炭火発が拡大し、温室効果ガス排出量を増やしてきました。今後開発を進める次世代高効率石炭火発も、排出量は天然ガス(LNG)発電の約2倍になります。
これまでは電力関連予算の約7割が原発に回されてきました。原発ゼロに政策を切り替えれば、省エネや再エネに大胆に予算を振り向けることが可能になります。原発ゼロこそ温暖化対策の道です。