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あえぐ東芝 大誤算の原発事業・・信用されない決算

会見で記者の質問に答える東芝の綱川智社長=4月11日、東京都港区

 東芝があえいでいます。米原子力事業での損失をめぐり、最終損益は5,325億円の赤字で、2016年12月時点で債務が資産を上回る債務超過となりました。決算発表を2度延期し、監査法人から意見表明がされないままの発表に踏み切るなど異例な対応が続きます。

(斎藤和紀)

 米原子力事業の損失の問題は06年10月、東芝が米原子力会社ウェスチングハウス(WH)を約6,000億円での買収から始まります。当時の原子力業界は、地球温暖化対策を口実に、世界的に原発建設が増加する「原発ルネサンス(復権)」と呼ばれる時期にありました。東芝は、アジアや欧州など世界各地に活動拠点をもつWHの買収をテコに、世界市場を狙います。

 原子力事業に関わる当時の経営方針は「バラ色」そのものでした。08年5月には「15年までに33基の受注を見込む」と発表。米国や中国での受注の実績を踏まえて、09年8月には「15年までに全世界で39基の受注を見込む」と目標を引き上げ、15年度の原子力事業の「売上1兆円」を掲げました。

 しかし11年3月11日の東京電力福島第1原発事故によって、原発事業をめぐる環境が激変しました。

 福島原発事故を受け、原発事故のリスクが世界的に再認識されました。米国では航空機追突対策が求められるなど、世界中で安全規制を強化。規制基準を満たすため設計変更や追加工事が要求され、工事は遅延し、建設コストは拡大しました。

 工事遅延に伴う追加費用をだれが負担するのかをめぐり、WHは、建設工事を共に手掛けていた米建設会社CB&Iおよび同子会社「CB&Iストーン・アンド・ウェブスター」(S&W)との間で訴訟合戦が起きました。12年から15年に及んだ訴訟は決着がつかず、工事の損失が表面化することを恐れたWHは、15年10月に、S&Wを買収することで解決をはかりました。

 しかし、S&Wの買収が東芝にとって致命的でした。この時の買収額はゼロ円。しかし、買収によってCB&I社が負うべき費用をWH側が引き受けることになりました。

政府が旗振り役

 海外原発輸出の旗振り役を務めていたのは政府でした。政府は05年に「原子力政策大綱」を作成。「わが国の原子力事業において培われた原子力発電技術を国際的に展開することは意義を有する」と強調しました。06年に東芝がWHを買収した当時、経済産業省の柳瀬唯夫・現経済産業政策局長は、買収を「画期的」だと評価しました。(『ENERGY for the FUTURE』07年1月号)

 安倍晋三政権は、原発輸出を経済政策の柱の1つとしています。原発は「重要なベースロード電源」と位置付け、30年度に発電電力量のうち20〜22%を原発で賄うと掲げています。政府が再稼働や原発輸出にお墨付きを与えてきたのです。

 米原発事業の巨額損失をめぐり、東芝は16年4月〜12月期決算の発表を2度延期しました。WHによるS&Wの買収に関する会計処理について、経営者が利益の水増しを指示する不適切な圧力があったと指摘されたためです。

 しかし、東芝は不適切な圧力の全容を明らかにせず、監査法人の意見が得られないまま決算発表に踏み切りました。監査法人から「この決算は信用できる」というお墨付きが得られていないことを意味します。

 東芝では15年に巨額の利益を水増した不正会計が発覚しました。

 今回の東芝の問題は、東芝の隠ぺい体質が改善されていないことを示しました。

上場廃止の恐れ

 東芝の上場廃止の可能性が高まっています。15年の不正会計問題で、東芝は東証から内部管理体制の改善を求める「特設注意市場銘柄」に指定されました。東証は現在、改善状況の審議を継続中であり、改善の見込みがないと判断されれば、上場廃止となります。社会的な信用を失墜させた東芝にとって上場廃止の回避は厳しさを増しています。

 3月30日に開かれた臨時株主総会では、株主たちの怒号が飛び交いました。「株主を納得させようという誠意がない」、「議事の進行が一方的だった」と、十分な説明をする姿勢をみせない経営陣にあきれ果てる株主も。原発事業を継続する経営陣の方針に、「原発は危ない仕事だからやめたほうがいい」と批判の声もあがりました。

 東芝は、米原子力事業での巨額損失を「稼ぎ頭」である半導体事業の売却で解消することを目指しています。

 半導体工場に勤める従業員は、「黒字出してるのに売られるなんておかしい」と悔しさをにじませています。

 「給料が維持されるのか」「別の会社に移ろうか」という従業員もおり、不安の声が広がっています。

 

東芝の米原子力事業での損失をめぐる主な動き

2006年10月 東芝がWHを約6,000億円で買収

2008年 5月 経営方針に「2015年までに33基の受注を見込む」と盛り込む

2009年 8月 「2015年までに全世界で39基の受注を見込む」と目標を上方修正

2011年3月11日 東京電力福島第1原発事故

2012年 WHとCB&IおよびS&Wの間で追加費用の負担をめぐり訴訟合戦が起きる

2015年10月 WHがS&Wを買収

2016年12月 米原子力事業で数千億円規模の損失が生じる可能性があることを発表

2017年2月14日 決算発表を延期。純損益が4,999億円赤字との見通しを発表

—〃— 3月14日 決算発表を再建期

—〃— 3月30日 臨時株主総会を開催

—〃— 4月11日 監査法人から意見表明が得られないまま決算を発表

(「しんぶん赤旗」2017年5月5日より転載)