原子力規制委員の更田(ふけた)豊志委員が、今月(1月)8~9日の関西電力高浜、大飯原発現地調査後の会見で「(高浜原発の夏までの再稼働は)不可能ではないだろう」「夏にまだ(両原発の)審査をやっていることにはならない」などと発言しました。更田氏は、原発再稼働の前提となる新基準適合性審査で、重大事故対策や火災対策などを担当する委員で、再稼働の見通しや審査の終了時期などに言及するのは異例です。
更田氏の発言は、現地調査前日に関西電力の八木誠社長が、夏までに再稼働を目指す方針を明らかにしたことについて問われて、答えたものです。
独自解析なし
審査会合は21日の開催で70回目になります。同氏は夏までの審査終了を示唆しましたが、そもそも審査には厳格さと慎重さが求められています。
しかし、本紙が10日付で指摘したように、原発の重大事故対策を評価するに当たって規制委は、事業者が提出した結果をチェックする独自の解析(クロスチェック解析)を実施していないことも分かっています。
規制委の事務方である規制庁の担当者は、「審査を淡々と続けるだけ」と説明し、審査終了時期について言及しません。それなのに更田氏が審査終了時期や、規制委の判断を超える、その先の再稼働に言及するのは、規制当局の発言とは思えません。
更田氏はさらに、新基準が施行された昨年7月に審査の申請がされた北海道電力泊3号機、関西電力の大飯3、4号機と高浜3、4号機、四国電力伊方3号機、九州電力川内1・2号機と玄海3、4号機の名前を挙げて、審査の進捗(しんちょく)に大きな差はないとした上で、「いずれも(原子炉が)比較的新しく、条件がいい。(新基準に)不適合ではじかれる炉は想像できない」と、審査途上にもかかわらず事実上の「合格」お墨付きを与える発言をしています。
地震・津波の議論 進捗が前提
現在行われている審査は、原発の設備・機器に関するいわば「上もの」が更田委員、地震・津波など基盤部分にあたるものが島崎邦彦委員長代理の担当になっています。審査に当たるチームも別です。
地震・津波の審査で、想定される地震の最大の揺れや津波の高さが確定しないと、「上もの」のさまざまな対策も決定できません。
更田氏は、夏までの審査終了の前提として「地震・津波の議論が収束すること」をあげて、地震・津波の審査をせかせるようなことまでいっています。
歓迎するのは
いずれにしても、審査終了時期や「不適合はない」などの発言を歓迎しているのは、再稼働を急ぐ電力会社でしょう。
「世界一厳しい基準」を自負する規制委が、手抜き審査にもつながりかねない、審査の出口の見通しについて軽々に語るべきではありません。
更田委員の発言
「審査で不合格は現実的ではない」
・(高浜・大飯原発について)夏にまだ審査をやっているということにはならないだろう
・(昨年7月に再稼働申請された)大飯、高浜、玄海、川内、泊、伊方がプラント審査で不合格という状況は現実的ではない
・(島崎邦彦委員長代理が担当する)地震・津波での議論が収束しなければ、夏までの審査終了は、おぼつかなくなる
・機器の構造計算書、強度計算書の確認は、従来は半年はかかった。私たちは突貫工事でやるが、いいかげんな確認をするわけにはいかないから、1カ月程度はかかる
(「しんぶん赤旗」2014年1月20日より転載)