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没落の東芝①〜⑤・・売却される稼ぎ頭/再稼働で“増収”狙う

没落の東芝①・・売却される稼ぎ頭

東芝の四日市工場=二重県四日市市

 経営危機に陥っている東芝の混迷は深まるばかりです。2017年3月14日に発表する予定だった2016年4〜12月期決算は、2月に続き、またもや延期されました。東芝は粉飾決算が発覚した15年3月期にも決算を2度延期した経緯があります。決算の再延期を繰り返す東芝の信頼は地に落ちました。

(金子豊弘、斎藤和紀)

 東京都港区にそびえる東芝本社ビルの39階。2月に決算の延期を発表した会場と同じ場所で、東芝の綱川智(つなかわ・さとし)社長は、深々と頭を下げました。

 綱川氏は、米原子力子会社のウェスチングハウス(WH)の過半の株式を売却し、米国の原子力事業から撤退する方針を表明しました。巨額損失発生が大問題となっているWHの債務を確定させる米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の申請についても、検討していることを明らかにしました。

 東芝は、原子力事業で出た巨額債務を半導体事業の売却で解消することを目指しています。

 会見で網川氏は、「企業価値の見積もりや国の安全、社員の今後の活躍の場を総合的に考え、(売却を)判断したい」と、半導体事業の売却を改めて表明しました。

「黒字なのに」

 半導体事業の売却益は、1兆円以上ともいわれています。

 三重県四日市市にある東芝の半導体工場では、夜7時を過きると12時間の勤務を終えた従業員たちが家路を急ぎます。

 「黒字出しとるのに、売られるなんて」。四日市工場に20年近く勤める男性従業員(38)は、悔しさでいっぱいです。

 四日市の半導体工場の従業員は約5800人にのぼります。半導体事業は、営業利益の約8割を占めたこともある稼ぎ頭です。ところが東芝は、半導体事業を分社化し、売却益で原発損失の穴を埋めようとしています。

 「自分のところとは関係ない原発部門のせいで、自分らが売られてしまうのは、腹が立つ。これからの生活、どうなるのか」。不安が広がる男性従業員。「心が折れたらもうダメ。大丈夫、大丈夫」といってくれる妻の言葉が励みです。

 東芝は半導体事業の売却先に対して、雇用条件の維持を要望していくと説明しています。しかし、従業員の中には、「給料が維持されるのか」「別の会社に行こうか」という人もいます。原発事業の破たんが働く人たちの暮らしを脅かしています。

雇用に対策を

 半導体事業の売却で、従業員の大量解雇が懸念されるなか、日本共産党の国会議員が対策を求めています。

 日本共産党の畑野君枝議員は、2月23日の衆院予算委員会分科会で、東芝のリストラ問題と雇用対策を要求。畑野氏は、東芝が2015年決算で赤字に転落したときに、1万人規模のリストラが行われたことを取り上げました。その上で、WHで約7000億円の巨額損失が見込まれ、川崎市では東芝によるリストラや地域経済への影響が心配されていると指摘。雇用対策本部を設置し、対応するよう求めました。

 原発を震源地とする東芝の巨額損失が、地域経済にも大きな影響を与えようとしています。

(つづく)(5回連載です)

(「しんぶん赤旗」2017年3月16日より転載)


 没落の東芝②・・米政界を巻き込んで

写真は記者会見で頭を下げる東芝の綱川智社長=3月14日、東京・東芝本社

 2月14日に東芝が発表した原発事業にからんだ損失は約7000億円に達していました。経営の屋台骨を揺るがす深刻な事態です。巨額損失の発生源は、米原子力子会社のウェスチングハウス(WH)が米国で手掛けている4基の原発建設です。

WH高値買い

 始まりは、2006年10月、東芝が総額約6000億円(当初の東芝株式保有比率77%)をかけたWHの買収でした。買収金額は、三菱重工業など同業他社と競り合った結果、「相場とみられていた倍の金額に膨れ上がった」(経済ジャーナリスト)もので、典型的な「高値買い」でした。

 当時、原子力業界は地球温暖化対策という口実や、石油価格の高騰などを受け「原発ルネサンス(復権)」と呼ばれる原発建設ラッシュにわいていました。

 東芝が技術を有する原発は、沸騰水型軽水炉(BWR)でした。しかし、世界の主流は、WHが技術を持つ加圧水型軽水炉(PWR)だったのです。

 BWR・PWR両炉型を推進することで世界の主導的企業を目指す—。これがWH買収の狙いでした。

 WHは、世界初の原子力潜水艦ノーチラス号の原子炉をつくった会社です。国家の安全保障に関わるWHを買収するには、米政府関係者の承諾が不可欠でした。買収への懸念を取り除くために東芝がとった作戦は、大物政治家に政府や議会に働きかけてもらうことでした。

 そこでベーカー元上院議員をロビイストに雇いました。ベーカー氏は、01年から05年まで駐日大使も務めた人物。ベーカー氏は次のように証言します。

 「買収にあたっては、国防総省やホワイトハウスなどの了解が必要でした。私は東芝に雇われこの買収には安全保障上の問題はないと、政府が判断する道筋を整えました。結果として、問題ないとみなされ、買収が可能になった」(NHKスペシャル「“アメリカ”買収グローバル化への苦闘」2008年10月26日放送)

ビシッと黙る

 買収価格がなぜ、2倍にもつり上がっていったのか、その正確な理由はいまだに不明です。「東芝自身が価格を引き上げたのではないか」(経済ジャーナリスト)との見方もあります。背景に東芝経営陣が「国内に頼っていては原発事業はじり貧になる」と考えていたことは確かです。

 東芝の社長、会長を歴任した西室泰三氏は、「米ウエスチングを買ったとき、僕は会長を退いていたけど、一生懸命手伝った」と雑誌のインタビューに笞えています。

 「あるとき、日本大使も務めたハワード・ベイカーさんが来日した。大使時代から、いろいろ付き合いがあった人。『実はこういうことで、ウエスチンクハウスを買いたい』と切り出したんだ。『申し訳ないけど、アメリカの国内のロビーイングが大変なんだ。有能な人を紹介してくれないか』と続けると、ベイカーさんが、『それじゃあ、俺がやってやる』とね」

 西室氏は、ベーカー氏のロビー活動によって「アメリカの政治家がビシッと黙っちゃった」(『東洋経済』16年9月17日号)といいます。

 WH買収によるグローバル戦略は、米政界も巻き込んだ大がかりなものだったのです。

(つづく)

(「しんぶん赤旗」2017年3月18日より転載)


没落の東芝③・・現実見ぬ「64基受注」

 東芝は2006年10月17日のウェスチングハウス(WH)買収説明会で、「BWR(沸騰水型軽水炉)・PWR(加圧水型軽水炉)両炉型を推進する世界のリーディングカンパニー」になると打ち出します。

 買収の狙いについて、東芝の執行役専務だった庭野征夫(にわの・まさお)氏は、こう指摘しています。

 「今回のウェスチンクハウスの株式取得は、この高い事業ポテンシャルを世界市場に展開できる絶好の機会である」「海外を中心とした事業の拡大に取り組み、さらに強固な収益体質を確立していく決意である」(『エネルギーレビュー』06年7月号)。

 このとき、原発推進という国策を錦の御旗にしていた東芝経営陣は、10年後の

事態を夢にも思わなかったのでしょう。

事業環境激変

 東芝は、WH買収をテコにしてグローバルな原発受注に積極的に動きだしました。

 08年5月には、「2015年までに33基の受注を見込む」とした経営方針を打ち出しました。WHは、米国で原発建設プロジェクトの受注に成功。中国での原発新設計画などを受け、翌09年8月には、「2015年までに全世界で39基の受注を見込む」として目標を引き上げました。このときは、15年度の原子力事業の「売上高1兆円」をぶち上げました。

 11年3月11日に発生した東日本大震災によって、東京電力福島第1原子力発電所で大事故が発生したことで、原発をめぐる事業環境が激変しました。安全規制が強化され、建設コストが拡大、工事は遅延が余儀なくされました。

 このとき、WHが米国で手掛けていた原発4基の建設の追加費用をだれが負担するのかをめぐり、建設会社との間で訴訟合戦が起きます。WHは、工事の損失が表面化することを恐れ、15年10月に建設会社を買収しました。

 ところが翌月、日本で開催した説明会で、東芝は、原発事業で損失が発生する可能性があることを隠す一方、今後15年間で64基の受注を目指すという計画を発表したのです。

 東芝は、「原発事業の収益性は高い」「原発事業の未来は明るい」といわんばかりでした。会計評論家の細野祐二氏は、「国策に基づいた誇大宣伝だった」と指摘します。

米国からくぎ

 東芝は3月14日、記者会見を開き16年4〜12月期決算を再延期することを明らかにしました。上場企業による2度の延期は極めて異例です。この会見で、経営危機の根源であるWHの非連結化を目指す方針を表明しました。WHの米連邦破産法11条(日本の民事両生法に相当)の申請に関し、綱川智(つなかわ・さとし)社長は、「選択肢」に入っていることも明らかにしました。しかし、「決まったものはない」とも述べました。再建をめぐり紆余(うよ)曲折が避けられない状況が続きます。

 16日、ワシントンを訪問していた世耕弘成経済産業相は、会談したロス商務長官とペリー・エネルギー長官の両長官から「米国で原発を建設しているWHの親会社である東芝の財政的安定性は、米国にとって非常に重要だ」とくぎを刺されました。

 トランプ米政権からの圧力の下、東芝再建へ公的資金の投入すらもささやかれ

始めました。

(つづく)

(「しんぶん赤旗」2017年3月21日より転載)


 没落の東芝④・・悲劇の始まりは買収

東芝の半導体工場=三重県四日市市

 2月14日の決算会見は、予定より2時間半遅れで始まりました。第3四半期報告書の決算発表もできませんでした。この日の会見で米原子力子会社のウェスチングハウス(WH)が買収した会社の減損額が膨れ上がり、原子力事業の減損額が7125億円に達したことを東芝は発表しました。

正しかったか

 2006年のWH買収は正しかったのか—。綱川智(つなかわ・さとし)社長は、記者団からの問いに「数字を見ると、正しいとは言いにくい」と述べました。東芝の悲劇の始まりです。

 巨額の損失が発生した原因は、WHが米国で手掛ける4基の原子力発電所建設事業です。

 WHは08年の4月、5月と連続的にボーグル発電所(ジョージア州)とVCサマー発電所(サウスカロライナ州)それぞれ2基、計4基の原発を受注しました。当初は、16年にも完成の予定でした。

 米国では、1979年のスリーマイル島事故以来、新規の原発建設は凍結されていました。ボーグル発電所は、事故後初めてのプロジェクトでした。ある経済ジャーナリストは、「30年ぶりの工事であり、サプライチェーン(部品供給網)も含めて、ノウハウがなくなっていたのではないか」と指摘します。

 とはいえ「原発ルネサンス」にわいていた当時の米国では、30基以上の原子力発電所の新規建設計画があったのです。東芝はこの機を逃すまいと「積極的な受注活動を展開していきます」と意気込んでいました。

遅延余儀なく

 しかし11年3月11日に発生した東京電力福島第1原子力発電所の大事故で事態は暗転します。

 米国では、航空機追突対策による設計変更や追加の安全対策が求められるようになりました。建設現場には、米国原子力規制委員会が事務所を構え、工事が進むたびに「これは何のための工事なのか」と作業員に質問。そのたびに工事が止まってしまう事態も発生したといいます。建設コストが拡大、工事は遅延が余儀なくされました。

 工事遅延にともなう追加費用をだれが負担するのかをめぐり、WHと建設工事を手掛けるエンジニアリング大手CB&Iおよび同社子会社のCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)との間で訴訟合戦が起きます。S&Wは原子力の建設と統合的なサービスを行う会社です。

 WHは、プラント建設に集中できない状況を解消するために、15年10月にCB&IからS&Wを買収しました。この買収によって「世界における原子力事業でのリーダの地位をさらに強固なものにしていきます」。WHの親会社である東芝の発表文は、こんな文章で結ばれていました。

 この買収の目的は「工事の効率を上げる」というものでした。しかし、この買収が東芝に致命的な結果をもたらします。この時の買収額はゼロ円でした。しかも、この買収契約によってCB&I社が負うべき費用をWH側が引き受けることとなったのです。

 S&W買収に至る東芝経営陣の判断が問題になります。2月14日の会見では、「ダマされたのか」との質問が飛びました。

 「私ども、お話しできる立場にない」と答える東芝の執行役常務の言葉には力がありませんでした。

(つづく)

(「しんぶん赤旗」2017年3月22日より転載)


没落の東芝⑤・・再稼働で“増収”狙う

会見を終えて足早に立ち去る東芝の綱川智社長=3月14日、東京・東芝本社

 東芝の経営を危機的状況に陥れたウェスチングハウス(WH)の2006年の買収。当時「画期的」な出来事であったと評価した官僚がいました。経済産業者の柳瀬唯夫・現経済産業政策局長は、資源エネルギー庁原子力政策課長たった時代に次のように発言しています。

 「東芝がWHを買収したというのは画期的でした。若い人たちには原子力産業は内向きで、すごくローカルな感じがしていたのが、本当に根を張りつつ、海外にも発信し、発展できるという可能性を示した」(『NERGY for the FUTURE』07年1月号)

 柳瀬氏は「原発ルネサンス」の流れを受けて、政府が原発推進を進めるべきである、として積極的に推進していました。

 業界誌『原子力eye』(05年8月号「原子力産業政策“三すくみ”の隘路〈あいろ〉を絶つ」)で次のように語っています。

海外で勝負を

 「日本の原子力政策の最も重要な課題は、2030年以降も原子力発電を3〜4割以上維持するためには、それまでに原子力の技術と人材の厚みをいかに維持発展させるかという点にあります。そういう意味からも、海外マーケットで勝負できるように日本の原子力産業が切磋琢磨(せっさたくま)する必要がありますし、このようなビジネスチャンスには積極的に挑戦していくべきだと考えます」

 原発は、ひとたび重大事故を起こし、放射能が外部に流出する事態になると、人類にはそれを制御する手段はありません。空間的にも、時間的にも、社会的にも、被害は広がり続けるという「異質の危険」があります。東京電力福島第1原発の事故は、原発の危険性をまざまざと示しています。

 しかし安倍晋三政権は、原発を「重要なベースロード電源」(「エネルギー基本計画」)とし、30年度の発電電力量のうち20〜22%を原発で賄う(「長期エネルギー需給見通し」)ために原発の再稼働に突き進んでいます。原発輸出は、アベノミクス(安倍政権の経済政策)の柱の一つです。

 菅義偉官房長官は3月14日の記者会見で「東芝に対する支援策について、政府としては検討しているという事実はありません」と言い切りました。

 一方、世耕弘成経済産業相は2月14日の記者会見で、「国内における原子力事業、特に廃炉・汚染水対策にも関係している企業でありますので、今後の対応については、しっかりと注視してまいりたい」と語っています。

水面下の検討

 原発事業に絡んだ巨額損失によって会社の存亡すら脅かされている東芝は、この事態に至っても原発事業から離脱しようとはしていません。それどころか東芝は、19年度に向けて、再稼働ビジネスをテコに国内の原子力の売上高を500億円増やし、2000億円にするとしています。

 一方、損失の穴埋めのために切り売りする半導体事業に対して榊原定征(さかきばら・さだゆき)経団連会長は、「半導体事業というのは、まさに国の基幹事業、最重要技術の一つ。海外に流出することを懸念する」と語っています。水面下では、日本政策投資銀行や産業革新機構の出資や融資が検討されています。

 経済ジャーナリストは、「政府による東芝支援策が検討されているのは、軍事と原発の両方をやっているからではないか」と吐き捨てるように語ります。

(おわり)

(「しんぶん赤旗」2017年3月23日より転載)