日本共産党嶺南地区委員会 > しんぶん赤旗 > “東日本大震災 原発事故6年”どうする賠償・費用・・住民の分断招く格差 東電国費救済の異常/大阪市立大教授 除本理史さん

“東日本大震災 原発事故6年”どうする賠償・費用・・住民の分断招く格差 東電国費救済の異常/大阪市立大教授 除本理史さん

よけもと・まさふみ 1971年生まれ。専門は環境政策論。福島県などで原発被害の実態や避難者支援の調査を続ける。著書に『公害から福島を考える—地域の再生をめざして』(岩波書店)など

 東日本大震災・原発事故から6年。東京電力福島第1原発事故による損害賠償や除染、廃炉などの費用は、昨年末の政府試算では21・5兆円に膨らむとされました。被災者への賠償のあり方、原発事故費用を国民に負担転嫁する仕組みづくりの問題点を、原発賠償問題に詳しい大阪市立大学教授の除本理史さんに聞きました。

(聞き手 中東久直)


 

事故収束、廃炉作業が予定から大幅に遅れている福島第1原発。国の試算によれば、廃炉費用は8兆円にも膨らむとされます(本紙チャーター機から、2017年3月撮影)

 事故後6年たって、原発事故に伴う避難指示区域(原発から20キロ圏内などに事故直後に設定された旧警戒区域、旧計画的避難区域)からの強制避難者への損害賠償が一定程度積みあがってきたことは事実です。しかし、根本的には賠償の中身の決め方の問題があります。

 最初からボタンの掛け違えがあり、当事者の声をきちんと反映しないまま決めてしまっていて、それへの納得感が得られないままここまできてしまった。

 もう一つは、避難指示区域の内側と外側で線引きがあり、大きな賠償の格差があることです。被害の大きさ、実態とかけ離れた賠償の格差があります。それが住民間の分断を招いているのは深刻な問題です。

 避難指示区域の外側の「自主避難者」には、賠償はほとんどない。仮設住宅の提供(民間借り上げ住宅も含む住宅無償提供)が行われてきたことで、多くの「自主避難者」は避難生活を続けることができました。

 これは賠償ではなくて、災害救助法にもとづいた被災者支援です。これもこの3月に打ち切られようとしています。賠償が早い時期に打ち切られた旧緊急時避難準備区域の人たちなども、同じ状況にあります。

 さまざまな困難を抱えた人たちが避難生活を続けられなくなり、行き場を失ってしまう深刻な事態が心配されます。

 福島県内の研究者や弁護士と一緒に、商工業分野の被害の実態調査をすすめてきました。地元の商工関連団体にアンケート協力をお願いしました。昨年(2016年)11月には避難指示区域外の業者の分を集計して公表しています。

 業種間の被害には、一定のばらつきがあります。しかし、とくに食品加工、観光関連というところでは、被害の継続性は強いというのが、あらためて裏付けられました。どちらも自然が基盤になった産業です。

 それから東電に賠償請求したことがない人たちも結構いることが分かりました。そういうところへの手当ても残されています。商工業の賠償は全体として打ち切られていますが、被害の残存、損害の継続性がみられ、未請求の人もいるかもしれな

い。国や東電は″定型化された賠償は打ち切って、個別の因果関係の判断″としますが、そういう段階に一足飛びにいける状況にはないように思います。

 避難指示区域内についても、戻って再開した商工業者がかなり将来への不安と困難を抱えている状況がみえてきました。原子力損害賠償紛争審査会が2011年8月に策定した「中間指針」は、事故前のように営業できるまで賠償を継続するとしています。

 本来、賠償されるべき被害はまだ残されていると思います。

東電国費救済の異常

2017年3月末で帰還困難区域を除き避難指示が解除される福島県飯舘村。除染で出た廃棄物の入ったフレコンバッグが並んでいます=2017年2月

 福島第1原発による事故費用は本来、事故を起こした東京電力が負担するべきものです。ところが、債務超過で法的整理が不可避であった東電を延命させて、それを大手電力会社で支え合う体制として、2011年9月に原子力損害賠償支援機構(14年8月に原子力損害賠償・廃炉等支援機構に改称)をつくりました。

 損害賠償についていうと、東電が払った分は、国からの交付国債をもとに同機構が資金援助し、いまそれが7兆円に近付きつつあります。東電(一般負担金+特別負担金)と大手電力(一般負担金)は負担金として機構に戻す仕組みです。一般負担金は電気料金に転嫁でき、消費者の懐からでているわけです。

 電力自由化がすすんでいて、16年4月から小売りの全面自由化が行われ、20年には営業費用と利益が確実に回収できた総括原価方式が廃止されます。一般負担金の仕組みは残す一方、それと並行して送電線使用料(託送料金)に賠償の一部を押し付けて、すべての消費者から回収するという仕組みをつくりました。

 そもそも東電の債務超過を避ける前提で、資金援助し、電気料金から回収していた仕組みがおかしい。東電の株主や債権者が守られてきました。株主への無配当は続けられていますが、株主の減資や債権者の債権カツトなどは避けてきました。

 そこへ電力自由化がすすんできて、この仕組みも危うくなってきたからというので、昨秋から政府主導で、不透明な非公開の審議、スピード審議で再構築しようとするのは問題です。

 追加被ばく線量を長期目標として、年間1ミリシーベルト以下になることを目指しすすめるとする除染についてみると、政府試算では2・5兆円が4兆円に膨らみました。機構が保有する東電株の売却益をあてるというのはおかしな話です。原発再稼働を前提にし、東電にちゃんと稼いでもらわなくてはいけないという論理が入っている。水俣病・チッソでもありましたが、それは加害者救済の論理です。

 昨年12月に閣議決定した「福島復興加速の基本指針」では、帰還困難区域に「特定復興拠点」を整備するための除染等は「国の負担において行う」としました。除染特措法に基づき、国・自治体が行った除染の費用は東電に求償することになっていますが、新しい除染カテゴリーの創出です。

 あからさまな国費投入で、汚染者負担の原則をないがしろにするものです。東電救済を国費でやるという質的に違う段階であり、これは大問題です。

 いま、私たちがしなければならないことは、福島の事故をきちんと検証し、本当に21・5兆円で足りるのかという数字の検証や事故の原因究明、国・東電などの責任のあり方をはっきりさせることです。もし、一定の国民負担が必要なのであれば、どういう仕組みでやるか、きちんと国民的に議論することが必要だと思います。

(「しんぶん赤旗」2017年3月18日より転載)