東日本大震災から6年。熊本地震から4月で1年。建築家などで作るNPO法人「設計協同フォーラム」が先月末東京都内で開いた「暮らし健やか住まい展」での講演などから、住宅の震災対策を紹介します。
(武田祐一)
柱・壁のバランス大事・・地盤の特性を知ることも
川崎市の1級建築士 小野誠一さんの講演
まず、住んでいる場所の地盤の特性を知っておくことが大事です。
沿岸部は近年の埋め立て地が多く、砂質地盤で液状化現象が起きる可能性があります。内陸部でも丘陵地を宅地化したところは谷を埋めた盛土(もりど)地盤と、丘を削った切土(きりど)地盤があります。盛土地・切土地では、地震で地盤や擁壁が崩れることがあります。大地震のときにどんな被害が出るかを想像し、耐震化と合わせて、塀や擁壁の対策も考える必要があります。
住宅の耐震化には、きちんとした構造計画、設計、施工が欠かせません。建築士などの専門家に依頼して耐震診断を行って、耐震改修を進めましょう。
いつ造られた建物なのか、まず図面や書類で確認しますので、大切に保管しておいてください。建築基準法の耐震基準は地震災害のたびに強化されたため、建設時期によっても建物の強度が違います。耐震基準は建物の倒壊から命を守る最低限のものです。被災後に住み続けられることは保証していません。建築基準法を守るだけでは不十分といえます。
一般的な木造住宅の耐震性を見るうえで大事なのは建物のバランスです。建物には重心と剛心(ごうしん)があります。重心は一番重さがかかる中心です。剛心は横からの力に対抗する建物の強さの中心です。この二つの点が一致しているとバランスが良く、揺れに強い建物になります。重心と剛心が大きくずれていると地震のときに重心を軸にして横からの力が働き、建物が回転するようにねじれて倒壊します。
壁が均等に建物を支えられる場所へ配置されていることが大事です。地震の揺れを受け止める壁が少ない所は弱い。壁の強度では、しっかりと筋かいが入った壁や厚い合板の壁は丈夫です。一方で外壁モルタルや室内の石膏(せっこう)ボード、化粧合板などの強度を過大に見ていないかを点検します。釘の種類や留め方によっても強度に違いがあります。
2階建て以上の建物では2階と1階で柱や壁の位置が一致していると強い構造になりますが、1階部分に柱や壁がない場合は弱くなります。
悪徳リフォームなどの例として、木材を補強する金物(金属部品)だけ付けて終わりということがありますが、金物だけでは効果的とはいえません。きちんと調整し、バランスを考えた計画をし、工事の記録も残しましょう。耐震リフォームに補助金制度がある自治体もあり、調べて活用しましょう。定期的に手を入れてメンテナンスすれば住まいは長持ちします。
主催者の設計協同フォーラム事務局長(1級建築士)・・酒井行夫さんの話
熊本地震から見えること
熊本地震の現地調査に昨年9月に入りました。熊本地震では震度7の地震が2回立て続けにあり、1度目で持ちこたえた家も、2度目で大破・倒壊しました。
熊本県益城町では多くの木造家屋が倒壊しました。要因の一つは軟弱な地盤だったこと、もう一つは構造計画、設計、施工に問題のある住宅だったことです。建築基準法の耐震基準は各地域によって違い「熊本は地震が少ない」という前提で、基準が軽減されていた影響もあると思います。
一方、伝統工法の木造家屋で1階南側に壁が全くなく、耐震的にはバランスが悪く見えるのですが、倒壊せず持ちこたえている例がありました。太い柱と梁(はり)を組み合わせた、しっかりとした造りであれば地震にも強いと実感しました。
日本はどこでも地震が起こりえます。耐震化は建物が動くことでクッションのように地震のエネルギーを吸収する「制振」や、建物に振動が伝わらないようにする「免震」を含めて進める必要があると思います。
(「しんぶん赤旗」2017年3月7日より転載)