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トランプ政権と温暖化 「パリ協定」脱退、資金停止いうが・・再生エネ転換止まらない/名古屋大学大学院教授 高村ゆかりさんに聞く

たかむら・ゆかり 龍谷大学教授などをへて2011年から現職。専門は国際法、環境法。環境省中央環境審議会委員など。編著に『気候変動と国際協調』『気候変動政策のダイナミズム』ほか。

 「地球温暖化は中国のでっち上げ」などと主張し、「パリ協定からの脱退」を公約したトランプ米大統領。世界の温暖化対策への影響は? 日本はどうすべきか?

 名古屋大学大学院教授(国際法)の高村ゆかりさんに聞きました。

(君塚陽子)

 

推進は世界の流れ、日本の国益

 温暖化について、トランプ政権の政策で当面気になる点は二つあります。

対策の制約に

 一つは「パリ協定」からの脱退です。パリ協定を脱退するのではないか、オバマ大統領がパリ協定を締結した大統領令を取り消す大統領令を出すのではないかとの観測もあります。しかしパリ協定はすでに昨年(2016年)11月4日に発効しており、脱退はその規定に基づくことになるので、4年間は脱退できません。

 気候変動枠組み条約から脱退すれば、パリ協定も脱退とみなされます。同条約は、通告してから1年後には脱退することができます。しかし米国は、ブッシユ(父)大統領の共和党政権時に上院の助言と承認を得て同条約を締結しており、政治的には脱退は容易ではないと思います。

 もっとも可能性があるのは資金の支払い停止です。共和党は、パレスチナを国として承認する国際機関であるとして、パレスチナが締約国になっている気候変動枠組み条約にも資金を出さない方針です。

 気候変動枠組み条約の分担金のうち、米国は2016年予算ベースで約2割を拠出しています。途上国の温暖化対策や適応策を支援する基金(緑の気候基金)に諸国が支払いを約束した103億ドル(約1兆1600億円)のうち、3割を米国が約束しています。

 これらの資金の支払い停止によって、パリ協定のルール作りや途上国支援が遅

れ、温暖化対策の前進の制約になる可能性があります。

 トランプ氏が大統領に当選したのは昨年11月、COP22(気候変動枠組み条約第22回締約国会議)の最中でした。会場で印象的だったのは、中国やインドの″米国がやるからではなく温暖化対策は国益なので進める″との発言です。

中国、インドも

村の集会場に設置した太陽光パネルから昼間にソーラーランタンに充電して夜間に村人に貸し出す(1カ月の利用料金は約100ルピー=日本円で130円)。インドでは総発電量のうち、再エネ(水力除く)が22%で原発約7%を大きく上回る(2015年)=ハリヤナ州の村で(和田幸子・元神戸外大教授提供

 中国は、大気汚染という国内事情もあり、石炭火力発電所の廃止を進め、再生可能エネルギー(再エネ)の拡大に力を入れています。

 ここ5年ほどで再エネ、特に太陽光のコストが世界的に下がったことがその背景にあります。電力インフラが遅れている途上国にとっては、数年かけて大規模な火力発電所や原発をつくり、送電網を大規模に整備するより、″足の速い″太陽光のほうが、電気が使えない人たちにより迅速に電気を供給でき、生活を改善することができます。再工ネ拡大に国益を感じている中国、インドが米国の出方で変わるとは思えません。

米内の企業も

 再エネヘのエネルギー転換は、世界的な潮流として止まらないでしょう。

 自社が使うエネルギーを再エネ100%にする取り組み(「RE100」)をアマゾン、グーグル、イケア、マイクロソフトなど世界的な企業が進めています。電気を使う側が再エネを「選択」する動きもそれを後押しします。

 また、米国内では630以上の企業・団体がトランプ大統領などに地球温暖化対策を強化し、パリ協定の順守を求める要望書を提出しました(1月10日)。

 そんななかで日本では、石炭火力発電所の新増設計画が目白押しです。海外の専門家からよく言われます。

 「ドイツや豪州など産炭国が雇用や地域経済の問題もあって石炭を減らすのに苦労するのは分かる。日本は国外にお金を払って輸入する化石燃料をなぜそんなに燃やしたいのか」と。

 温暖化対策の柱である省エネと再エネは、日本にとっては国富の流出を防ぎ、地域に雇用を生み、地域再生に貢献します。エネルギー自給率の向上は安全保障につながります。省エネと再エネを軸に温暖化対策を進めることは日本の国益にかないます。温暖化の悪影響を防止するとともに、温暖化対策がもたらすこうしたプラスの効果を見逃してはならないと思います。

(「しんぶん赤旗」2017年2月20日より転載)