宮城県石巻市が1月17日、国と東北電力が再稼働を狙う女川(おながわ)原発2号機(宮城県石巻市、女川町)の重大事故を想定した広域避難計画の概要版を策定しました。同原発の周辺自治体(3市4町)の避難計画がそろいました。避難計画の実効性や、前提となる原発再稼働そのものに対して疑問、不安の声があがっています。 (高橋拓丸)
東日本大震災後、国は防災基本計画を改め、原発30キロ圏内の自治体はそれぞれ圏外への避難計画を策定することが義務づけられました。
宮城県では、2014年に県が避難計画の指針となるガイドライン(広報手段、避難方法、避難者の支援体制など)を作成しました。しかし立地自治体である女川町は昨年11月、石巻市は今年1月と、策定が大幅にずれこみました。
巨大すぎる規模
策定が難航した原因のひとつとして、避難規模の巨大さと避難先の分散があります。避難対象となる30キロ圏内の住民は21万人にも及びます。複数の自治体住民が避難することから、大きな渋滞の発生が予想されています。
石巻市では約14万7000人が、原則としてマイカーで県内27市町村の304ヵ所へ避難することになります。避難先が大きく分散することになったのは、「県内避難」という県のガイドラインの指定によるものです。
牡鹿(おしか)半島からの避難についても、避難経路になっている県道220号線(牡鹿コバルトライン)が、東日本大震災時に寸断され通行不能になった問題があります。
牡鹿半島先端部の住民は、避難ルートの途中にある女川原発にいったん接近し、5キロ圏内を通過するルートになっています。そのため、被ばくを低減させる安定ヨウ素剤の事前配布が決められています。
しかし観光客や、薬物に過敏に反応する体質(アレルギーなど)の住民への対応の問題が市民団体などによって指摘されています。県内の小学校校長は「子どもたちが学校にいる際に事故が起きたら、ヨウ素剤を飲ませる判断の責任の所在はどうなるのか。そうまでして原発は動かさなくてはならないのか」と話します。
避難先に指定された自治体が被災して受け入れ困難な場合の対応や、病院・福祉施設利用者の避難、マイカー避難ができない住民へのバスおよび運転手の確保など、さらにさまざまな問題の発生が予想されます。女川町の担当職員は「一自治体で解決しきれるものではない」と話します。
石巻市は年度内に正式な避難計画をまとめる方針です。1月24日に開かれた石巻市議会の総合防災対策特別委員会で、市の担当職員は年度内に公表する計画は「まだ3割程度」と話します。
住民の安全を確保するにはほど遠い避難計画となっていることに、保守の議員からも
「これまで国策として原発を支えてきたのに、27自治体への避難計画なんてものをなぜ地元自治体に押しつけるんだ」といらだちの声があがりました。
復興さまたげる
被災地の自治体は震災復興のために大幅に職員が不足し、全国から支援を受けている状態です。日本共産党の水沢ふじえ市議は「ただでさえ人手不足なのに、避難計画に多くの人と時間をとられています。避難計画の回題は、国や県、東北電力が責任を市町村に投げているのが実態です。避難の対策押しつけでなく、原発ゼロをめざすことが一番現実的な道です」と話します。
(「しんぶん」赤旗2017年2月10日より転載)