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東南海震源域にひずみ・・紀伊半島沖M6級 間近で精密観測

 紀伊半島沖の海底下で昨年(2016年)4月、マグニチュード(M)6.5(気象庁発表)の地震が発生しました。海洋研究開発機構などの研究グループが、南海トラフ沿いに発生する巨大地震、東南海地震の想定震源域で発生していたことをつきとめました。同震源域で発生したM6以上の地震は、1944年の東南海地震(M7.9)以来72年ぶりだといいます。今回の地震が意味するものとは——。

(間宮利夫)

東南海震源域にひずみ

図1・・1944年の東南海地震の震央(黒い星印)と滑った領域(黒線内)。赤い星印が2016年の地震の震央。緑の丸は孔内観測点(海洋研究開発機構提供)

 地震は、2016年4月1日の午前11時39分、三重県の南東沖、陸地から約50酒μの海底下10キロメートルで発生しました(図1)。紀伊半島の最南端、和歌山県古座川町で最大震度4を観測するなど、近畿、中部、四国、中国の広い範囲で震度1以上の揺れを観測しました。

 紀伊半島を含む、東海から九州にかけての太平洋側の沖の海底には、南海トラフと呼ばれる深い溝が横だわっています。そこは、海のプレート(岩板)、フィリピン海プレートが、東海から西の日本列島が乗るユーラシアプレートの下に沈み込んでいる現場です。

 南海トラフ沿いでは、100〜150年間隔でM8級の東海地震、東南海地震、南海地震が繰り返し発生しています。フィリピン海プレートの沈み込みに伴って、二つのプレートの境界に歪が蓄積し、それが限界に達して一気にずれて引き起こされると考えられています。

静穏が続く中で

 政府の地震調査研究推進本部は、南海トラフ沿いでM8級あるいは、三つの地震などが連動するM9級の地震が30年以内に発生する確率を60〜70%としており、いつ発生してもおかしくない状況です。三重県の南東沖の海底下は、東南海地震の想定震源域とされ、プレート境界の状態がどうなっているかを知る手がかりとなる、地震活動が注目されていました。

 しかし、プレート境界の地震活動は比較的静穏な状態が続いていました。そんな中で発生したのが、16年4月1日のM6・5の地震でした。陸上での観測に基づく気象庁の解析によると、プレート境界付近で起こった逆断層型の地震でした。海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センターの荒木英一郎博士たちは、この地震がほんとうに東南海地震の想定震源域であるプレート境界で発生したのかを確かめることにしました。

 検証に使ったのは、震源の上を覆うように展開された地震・津波観測監視システムDONET(ドゥーネット)がとらえた、地震発生時とその前後の期間の震源域近傍でのさまざまな海底観測データと、震央から南東へ20〜30キロメートルのところに設置された2ヵ所の掘削孔内観測装置がとらえた海底下の地中の水圧データです。海洋研究開発機構がこれまで船からエアガンで音波を出して探査するやり方で調べた海底下の地殻構造と併せて解析した結果、次のことが明らかになりました。

2センチ未満の津波

図2・・DONET1の配置図(海洋研究開発機構提供)

 ①M6・5の地震を含む前後の一連の地震の震源がプレート境界面近傍に集中していること。②海底面が震央付近で1・7センチ沈降し、沖合で数ミリメートル隆起した。③2ヵ所の孔内観測点では地殻がそれぞれ100万分の0・37と100万分の0・15圧縮された。④地震直後に震央付近で高さ2センチメートル未満の津波が発生し、周囲に伝わっていった。⑤孔内の間隙水圧が地震時に急上昇し、その後も2日間にわたって上昇を続けた。⑥地震後に、約10キロメートル離れた場所で余震が活発化した。

 ①〜④は、この地震が、プレート境界面が滑って発生したことを示しています。⑤と⑥は、地震が、ゆっくり滑りを起こす領域と深部の固着域の間の遷移域で発生したことを意味していると考えられるといいます。

 荒木さんは「地震のときに高速破壊を起こすところが、ほかのときにはどうなっているのかはよくわかっていない。今回の結果は、こうした謎を解く手がかりとなると考えられる」と説明します。

 今回の地震は、この地域で1944年の東南海地震後に歪蓄積が進行していることを明らかにしました。今回滑って地震を発生させた領域は10キロメートル×3キロメートルぐらいの範囲で、滑ったのも1・5メートルぐらいで、1944年の東南海地震と比べれば、ごく小さな規模だったといいます。

 荒木さんたちは、さまざまな東南海地震発生シナリオを念頭に、観測を強化し、今後起こると考えられる現象を見逃さずとらえようと意気込んでいます。

 

1944年東南海地震・・

 1944年12月7日午後1時36分に、三重県南東沖の海底下を震源に発生したM7.9の南海トラフ沿いのプレート境界巨大地震。戦争中で情報が統制されていましたが、東海地方の広い範囲で震度6の強い揺れを観測しました。『理科年表』によると、各地で津波が観測され、熊野灘沿岸では高さ6〜8メートルに達しました。死者・行方不明者1223人、住宅全壊1万7599、半壊3万6520、流失3129となっています。 46年12月21日には東南海地震の震源の西側でM8.0の南海地震が発生しました。

 

DONET 海底から休まず監視

(右)DONETの装置の一部(海洋研究開発機構提供) (左)掘削孔内に観測装置を設置しているところ(海洋研究開発機構/国際深海科学掘削計画提供)

 DONETは、南海トラフの地震・津波を常時観測監視するために11年前から海洋研究開発機構が整備を進め、現在は防災科学技術研究所に移管、連携して運用しています。三重県南東沖の東南海地震想定震源域を対象としたDONET1と、和歌山県の南沖から高知県南東沖にかけての南海地震想定震源域を対象としたDONET2があります。

 すでに完成しているDONET1は、三重県尾鷲市から沖合125キロメートル先の海底までケーブルがのび、途中5ヵ所に、それぞれ四つの観測点が接続されています(図2)。

 各観測点には、強い揺れを記録する強震計、大地震や遠く離れた震源から伝わるゆっくりした揺れまで記録する広帯域地震計、津波を検知する水圧計や微差圧計、さらに海中の音を検知するハイドロフォン、温度の変化を敏感にとらえる精密温度計が設置され、さまざまな原因による海底の動きを確実にとらえることができます。

 掘削孔内観測装置は、国際的な深海科学掘削計画「IODP」の計画に基づいて、海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」が海底下を掘削した孔内に温度センサーや歪計、広帯域地震計、傾斜計、高感度地震計、強震計、圧力ポートを設置したものです。三重県東南沖には、2ヵ所あります。

(「しんぶん赤旗」2017年2月6日より転載)