琵琶湖の南に位置する滋賀県湖南市(人口約5万5千人)。昨年、市が中心となって地元企業などと新電力会社「こなんウルトラパワー(資本金900万円)を設立しました。市内の太陽光発電などから電気を調達し、市内に供給。「エネルギーの地産地消」「利益の地域循環」をめざします。
(君塚陽子)
昨年(2016年)10月から市庁舎や学校など公共施設に電気の供給を始めました。
「電気料金は約10%下がりました。各施設の電力使用量もリアルタイムに把握できるので、何を使ったときに使用量が増えるのかが分かり、省エネを具体的に助言できます」というのは市地域エネルギー課の池本末和係長です。
絶食センターでは複数ある食器洗浄機を一斉に稼働させず時間をずらして動かすことで省エネし、庁舎の昼休み消灯は当然です。
電気は一般家庭にも売る予定で、2017年度に試験販売を始めます。
■利益も循環
12年、自然エネルギーの売電価格を保証する固定価格買取制度(FIT)が導入されると、全国でメガソーラー(大規模太陽光発電)など大企業主導の事業が急増しました。得られた利益の大半は地元と無関係です。
そんななか湖南市は、″自然エネルギーは地域のもの″を合言葉に「地域自然エネルギー基本条例」を制定。自然エネルギー推進とともに″その利益の地域循環″を掲げました。
「こなんウルトラパワーよもその一環です。販売する電気の半分程度を市内の太陽光発電など自然エネルギーでまかなう予定です。
その担い手として注目されるのは市民が共同で出資する「市民共同発電」です。同市は障害者の就労にかかわる溝口弘さんたちが1997年に「市民共同発電」第1号を設置した草分けの地です。
条例制定後、市や溝口さんを中心に「コナン市民共同発電所」づくりを始めました。13年に「初号機」が稼働を始め、現在は4基(計166キロワット)。
珍しいのは地元企業との協力です。地元で運輸業などを営む甲西陸運は、自社の物流センターの屋根に市民共同発電のパネル(約105キロワット)を設置。中林裕貴部長は「社員のほとんどは市民。エネルギーの地産地消や地域活性化に貢献したい」と話します。
出資した市民への配当は、市内173店鋪で使える地域商品券です。
プロジェクトを支える徳永千恵子さんは「子どもたちの将来を考えると地球温暖化が心配」と言います。
「自分は何ができるんだろう」と考え、自宅の屋根に太陽光パネルをつけました。「使う電気が表示されるようになって省エネを意識するようになりました」
■イモで発電
市民が参加するエネルギーづくりは、ユニークな形に発展しています。サツマイモ発電です。
市主催の連続講座(13年)で近畿大学の鈴木高広教授がサツマイモを原料にしたバイオマス発電を紹介しました。イモは食用にし、規格外やツル、葉を発酵させメタンガスで発電する仕組みです。
「土づくりや植え付け、水やり・・、この方法ならハンディのある人も自然エネルギーの発電に参加できる」と考えた溝口さんは「こなんイモ・夢づくり協議会」を立ち上げ、休耕地を使った栽培に取り組み始めました。
16年度には、学校や保育園、福祉施設にもイモの栽培が広がり、地域で取り組むグループも生まれました。
仲間と一緒にグループ「もえぽてと」をつくった荒川萌希(もえき)さん(19)です。東日本大震災当時、中学2年だった萌希さんは原発事故で初めて原発の存在を知りました。
「5年以上たっても故郷に帰れない人がいる。自分だったらとてもつらい。もしも福井の原発が爆発したら琵琶湖の水も汚染されると思うと不安です。おイモのエネルギーが使えるようになったらとてもいいと思う」
今年も仲間たちと栽培する予定です。
この1月、市と協議会は、地元企業が試作した発酵槽を使って収穫したイモで発電の実証実験を始めます。
(「しんぶん赤旗」2017年1月1日より転載)