安倍晋三政権が、発生から6年が近づく東京電力福島第1原発事故の「復興」方針を見直すとともに、膨らみ続ける除染や賠償、廃炉などの費用のため、国と消費者の負担引き上げを打ち出しました。経済産業省が財界人などの会議で検討してきた報告を盛り込んだものですが、事故を起こした東電の責任をあいまいにして国民負担をなし崩しで拡大するのは許されません。事故対策の費用はこれまでの11兆円が21・5兆円に引き上げられたうえさらに膨らみ続ける見込みです。国民負担増でなく事故を起こした東電と国の責任を明確にした対策がいよいよ必要です。
膨らみ続ける事故の費用
東電福島第1原発の事故対策の費用は、2011年3月の事故後、賠償に5兆円、廃炉には1兆円と見積もられていました。しかしその後膨らみ、13年12月に安倍政権が「復興加速」の方針を決定した際には賠償・除染に9兆円、廃炉や汚染水対策に2兆円など、合計11兆円としていました。今回の見直しでは、賠償に7・9兆円、除染に4兆円、汚染物質などの中間貯蔵施設に1・6兆円としたほか、原則東電が負担する廃炉の費用も8兆円に上る見込みで、総額は21・5兆円に達します。
安倍政権はこれまで、賠償と除染の費用は国が交付国債で立て替え、賠償分は東電など電力会社が、除染分は東電株の売却益を充て、廃炉の費用は東電が負担する原則を打ち出してきました。今回の見直しでは、賠償分の一部を原発による電力を消費した「過去分」として、大手の電力会社以外の、現在は原発に依存していない「新電力」にも負担させます。負担増は「託送料」に上乗せされ、電気料金に転嫁されます。経産省はその代わり原発などで発電した電力を「新電力」に売る「ベースロード電源市場」を創設します。
放射線量が高く住民が今すぐ帰れない「帰還困難区域」に整備する「復興拠点」については除染費用を東電に請求せず、国費で負担します(来年度300億円)。
さらに東電が廃炉の費用を捻出できるよう、東電が「託送料」を受け取る送配電事業などでもうけを上げても積み立てに回し料金を値下げしなくてもいいようにします。東電以外の電力会社が繰り上げて廃炉を決めた際にも料金に上乗せする制度を使えるようにします。
東京電力福島原発事故は、原発に依存し、必要な事故への備えを怠った東電が起こしたものであり、東電の責任は重大です。国民の電気料金や税金で賄う国費の負担を増やし、東電の負担を減らせば、事故を起こした東電の責任をあいまいにすることにしかなりません。本末転倒の東電救済策です。
原発への依存推進やめよ
重大なのは、安倍政権が福島原発の重大な事故を反省せず、原発への依存を推進していることです。東電の負担を軽くするだけでなく、利益が確保できるよう、停止中の柏崎刈羽原発などを再稼働させる方針です。東電が確実にもうけを上げられるよう、他の電力会社などとの提携も推進します。
原発が危険なだけでなく費用がかかりすぎるのは、今や明白です。安倍政権は原発再稼働に加え、破綻した「もんじゅ」など「核燃料サイクル」にも固執し続けています。原発依存は転換し、直ちに「原発ゼロ」へ向かうべきです。
(「しんぶん赤旗」2016年12月22日より転載)