電力会社の労働組合である電力総連が「原発再稼働の促進」「もんじゅ活用」「原子力規制行政の刷新」などを求める署名を全国の加盟単組の組合員に呼びかけていることが10日までに、本紙の調べで分かりました。労働者らからは「電力総連が原発推進署名を集めるなんて聞いたことがない」「異常だ」と批判があがっています。(芦川章子)
署名を主導しているのは「一般社団法人原子力国民会議」など。原発推進団体です。同会によると同趣旨の署名に取り組むのは初めて。1日に都内で開いた「原子力集約全国大会」で採択した声明文の賛同署名として呼びかけたといいます。協力したのは電力総連や全国の商工会など。1日時点で約20万人分が集まり、政府に提出する予定だといいます。
本紙が入手した九州総連の指示文書には「組合員とその家族を対象に」「組合員の半数以上を目標に最大限のご協力を」とあります。九州総連は同文書について認め「署名は電力総連からの協力要請をうけたもの。社内で組合員に呼びかけた」といいます。
声明書の内容は四つ。(1)原発再稼働の促進(2)もんじゅ活用と核燃料サイクルの確立(3)原子炉等規制法の改正(4)原子力規制行政の刷新―です。「原子力発電所なしにはわが国は成り立っていきません」「政府は不退転の覚悟であらゆる手段を尽くして再稼働を促進すべきであり、原子力規制委員会も適合審査を加速すべき」だと迫っています。
“原発ありき”
関西電力OBの男性は「関電でも現役労働者に呼びかけられていることを確認しています。電力総連が組合員に署名を呼びかける、ましてや原発推進の署名なんて聞いたことがない。異常です。社内で回覧したら業務命令と同じ。疑問を持っていても断れない。原発稼働なしで電力はあまっている状況で、なりふり構わない“原発ありき”の動きだ」といいます。
1日の「原子力集約全国大会」には約600人が参加。平日昼間にもかかわらず30代から50代のスーツ姿の男性ばかり。ある男性は「電力会社の社員」といいます。終了後の廊下では「今から社に戻るよ」という会話も。
細田博之・自民党総務会長はじめ自民党の国会議員、学者、原発立地自治体の首長らが出席。「ここからがスタート」「草の根で対話広げている」といった決意表明や原発の“有効性や安全性”の解説がつづきました。
労組員を動員
労働組合を動員した原発推進運動に、北海道電力OBで原発の問題点を訴えている男性は「原発推進派の焦り」を指摘します。原発ゼロの運動は全国でつづき、どの世論調査でも原発再稼働反対は5割を超えます。
男性はいいます。「破綻が明らかな核燃料サイクル政策にしがみつき、原発再稼働に固執している。福島第1原発事故は今も収束のめどがたたず、8万人以上が避難生活を送っている。賠償、除染、廃炉などの処理費用は現段階で約22兆円にも上る。この事実を電力総連はどう考えているのか」
(「しんぶん赤旗」2016年12月11日より転載)