2011年の東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所事故に伴う賠償業務に携わり精神障害(うつ病)を発症したのは、長時間・過密労働と慢性的な睡眠不足、ストレスなどが原因の労働災害であるとして休職中の東電社員が10月31日、中央労働基準監督署(東京都千代田区)に労災認定を申し立てました。
申し立てたのは13年2月から6月まで法人部門の賠償業務を統括する産業補償総括グループ基準運用チームの一井唯史さん(35)。
一井さんは申請後の記者会見で「原発事故による被災者のために賠償業務に尽力してきたが、いまだに10万人近い方々に避難生活を強いている現実に心苦しく思います。事故を起こした東電社員として謝罪したい」と、頭を深々と下げました。
同時に賠償業務について東電は「とにかく謝れ」と言いながら最低限の賠償にするように指示されていたと告発。原発事故当時に、「原発政策を推進する政党が政権をとるまでは(ネット上での)発信内容には留意しろと指示するなど東電は被災者に向き合うよりも、原発再稼働を優先する企業だ。労災申請でそうした東電体質を変えたい」との決意を語りました。
申立書によれば、一井さんは03年に東電に入社し、11年3月の原発事故後の同年9月から賠償業務の法人部門に配属されました。13年2月には、法人賠償組織(約450人)を代表し賠償基準の責任権限を持つ基準運用チームメンバー(6人)に。複雑で難しい案件について、賠償業務担当者や管理職からの相談を受けて、賠償の可否判断などを助言していました。
月100時間を超える残業、睡眠時間が4時間という状況に加え、東電の無理な組織改編で過重・長時間労働を強いられ、13年9月にうつ病と診断されました。
東電は社員からの労災認定の申し出に対し、「私病」扱いの傷病休職期間切れとして11月5日での解職を通知しています。
解説
問われる東電のコスト削減
東京電力福島第1原発事故の法人賠償業務にかかわり、労災認定を申請した東電社員、一井唯史さんは「申立書」のなかで、東電の態度を「会社ぐるみの労災隠し」と告発しています。
一井さんは賠償業務にかかわるストレスが厚生労働省の「精神障害の労災認定」の示す「強」に該当、認定レベルにあることなどを挙げ、会社側に「賠償業務に起因する労働災害としての扱い」を求めました。
それを拒む東電。背景に東電による原発事故後のコスト削減を理由にした人員削減があります。一方で新潟県にある柏崎刈羽原発には再稼働を視野に職員数を確保するなど明らかに再稼働ありきの態勢です。
いま東電に求められているのは福島原発事故の原因究明とともに、除染や賠償、廃炉などの作業に全力を挙げることです。汚染水をめぐり、原子力規制委員会でも「柏崎刈羽が万全だと主張するなら、そのリソース(人や資金)を福島第1原発に投入できないのか疑問だ」との意見が上がるほどです。
柏崎刈羽原発の再稼働を断念し、それに要する資金や労働者を福島原発の事故処理に向けることです。一井さんのような深刻な過密・長時間労働をなくし、賠償や除染、廃炉作業のために人員を増やすことこそ求められています。(山本眞直)
(「しんぶん赤旗」2016年11月1日より転載)