過酷事故を起こした電力会社の賠償責任に上限を設け、それを超えた分を税や電気料金で国民に負担させるかどうか―。原発などの事故に備えた賠償制度(原賠制度)の見直しに向けた内閣府の専門部会が9月3日開かれ、集中的な議論が始まりました。
現行の原賠制度は、事故を起こした電力会社に対し、事故の過失・無過失にかかわらず無限の賠償責任を負わせることを原則にしています。原発事故に備え、現行では最大1200億円を確保できるよう民間保険と政府補償の契約を義務づけています。
しかし、東京電力福島第1原発事故で、過酷事故が起きたら電力会社に、ばく大な賠償責任が発生することが明らかになりました。
事故後、財界は事故のリスクを国民に負わせ、電力会社の賠償を限定するよう見直しを求める動きを強め、安倍政権は、2014年に決めた「エネルギー基本計画」で、総合的に見直しの検討を進めると明記。内閣府原子力委員会のもとに原子力損害賠償制度専門部会を昨年5月、発足させました。メンバーは、オブザーバーを含め25人で、大学教授や弁護士のほか財界や電力などの業界代表が名前を連ねています。
3日の専門部会は、賠償責任の範囲がテーマ。事務局から、「有限責任」「無限責任」の両方の論点に関する検討案が出されました。
「有限責任」では、電力会社が負担する「相当高額の責任限度額」を設定し、それを超える損害分は、新たな国の補償制度を設け、税や電気料金による国民負担を求めることになり、制度設計については事故発生後「柔軟に対応」としています。
経団連の加藤康彦氏(三井造船会長)は、原子力事業者の担い手の確保を理由に「上限を設定し、それを超える損害が発生した場合は、国が積極的な役割を果たす仕組みを提案している」と有限責任化を主張。「(事務局が示した検討案の図は)経団連の主張に近い」と述べました。
日本商工会議所の市川昌久氏は、政府が30年度の電源構成比で原子力を20~22%と決めているから「これを実現していくため、事業者の足かせとならないように」と述べるなど、原発推進を前提に検討するよう要望する意見も複数ありました。
一方、早稲田大学の大塚直教授は、有限責任にすると、原発の安全投資に影響するなどとして「全体として無限責任を維持することが必要である」と述べました。
(「しんぶん赤旗」2016年10月5日より転載)