今年に入って茨城県南部を震源とするマグニチュード(M)5級の地震が相次いで発生しています。それより規模が小さいものを含め、震度4以上を観測した地震は5回発生しており、例年にない多さです。今後30年以内に70%の確率で発生するとされる「首都直下地震」の前触れでしょうか。八木勇治・筑波大学准教授(地震学)に聞きました。
(間宮利夫)
5月16日午後9時23分ごろ、茨城県南部の深さ42キロを震源とするM5・5の地震が発生し、茨城県小美玉市で震度5弱を観測。7月17日と20日にも茨城県南部の深さ42キロを震源とするM5・0の地震が発生しました。
首都直下地震というと、深さ10キロぐらいの浅いところで起こる「直下型」をイメージする人が多いのですが、実はそうではありません。直下型地震がもし発生すれば、それこそ甚大な被害を受けることになりますが、面部の直下でこのような地震が過去に起こったという記録が残っていないので、それが30年以内に70%の確率で発生するなどということは言えません。
30年以内に70%と言っているのは、主に首都直下の深さ40キロ以深で発生する地震です。このような地震は過去に何度も発生し、その経験から30年以内に70%と計算できます。深いところで発生するので、相当な被害は出ますが、直下型に比べ限定的です。
具体的な例は、関東地方が乗る陸のプレート(岩板)と、その下に南東から沈み込んでいるフィリピン海プレートの間で発生するM7級の地震です。東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城などの各部県のどこかで発生するとされているのですが、M5級の地震が相次いでいる茨城県南部もそれに該当します。
3・11以降急増
茨城県南部の地震活動は、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(M9・0)の後、様相が大きくかわりました。それまでは、M5級の地震が発生するのは数年に1回でしたが、3・11以降急激に増えました。
東北地方太平洋沖地震は東北地方が乗る陸のプレートと、その下に東から沈み込んでいる太平洋プレートの境界で発生した地震なので、茨城県南部の地震を発生させる場所とは直接関係ありません。
しかし、関東地方の地下では、フィリピン海プレートの下に太平洋プレートが沈み込んでいます。東北地方太平洋沖地震が、全体のバランスを崩したということはあるかもしれませんが、詳しい地下構造がはっきりしないので、なぜ地震の回数が増えたり、規模が大きくなったりしたかはわかっていません。
いずれにしても、地震活動か活発化していることは、大きな地震発生の可能性が高くなったとみるべきです。1895年と1921年には、茨城県南部を震源とするM7級の地震が発生しています。当時の観測精度では深さがわからないので、陸のプレートとフィリピン海プレートの境界で発生したかどうか不明ですが、1895年の地震では死者が6人出ました。
帰宅困難者発生
当時と今では住民の数も違っており、茨城県南部でM7の地震が起これば人的被害や建物の被害だけでなく、鉄道や道路など交通網が遮断され、多数の帰宅困難者が発生し、物資の輸送ができなくなることも予想されます。直下型地震に目を奪われて、そんな地震が発生したらどうしようと考えるのではなく、首都直下地震を正しく捉え、備えをしていくことが大切です。
陸のプレートとフィリピン海プレートの境界で発生する地震だけでなく、首都直下では太平洋プレートを含む三つのプレートが複雑に入り組んでいるため、さまざまな地震が発生します。7月27日には茨城県北部の深さ57キロを震源とするM5・4の地震が発生し、茨城県日立市などで震度4を観測しました。気象庁は、東北地方太平洋沖地震の余震だと発表しました。3・11直後よりだいぶ少なくなっているとはいえ、今でも通常より活発な状況が続いています。
東北地方太平洋沖地震のときには動かず、「割れ残り」と言われている千葉県沖の太平洋プレートと陸のプレートの境界も、今後大きな地震と津波を発生させる可能性は無視できません。首都直下型地震はいつ発生するかわからないといいましたが、発生すれば甚大な被害が予想されますし、東京都と埼玉県にまたがる立川断層帯と、神奈川県の三浦断層群については、国の地震調査研究推進本部が、長期評価で30年以内の発生確率をそれぞれ「やや高い」と「高い」としており、注意が必要です。
(「しんぶん赤旗」2016年9月5日より転載)