2011年の東京電力福島第1原発事故後に増加した化石燃料の輸入量・額がともに減少に転じています。石油にいたっては量・額とも、事故前の10年と比べても減少。福島事故以降、原発推進勢力が振りまいてきた“国富流出”諭の破たんが明らかになっています。
(佐久間亮)
原子力産業協会の今井敬会長(新日鉄住金名誉会長)は2015年の原産大会でのあいさつで、福島事故後の全原発停止によって火力発電への依存が強まった結果、化石燃料代として「年間4兆円にも及ぶ国富が流出」していると訴えました。
原発停止による“国富流出”論は、エネルギー基本計画など政府の方針にも盛り込まれています。最近は低調となり、16年の原産大会の今井会長のあいさつでも一言も触れられませんでした。
価格低下と円高
資源価格の低下と円高によって、福島事故後高止まりしてきた化石燃料の輸入額が急速に下がり、根拠が完全に崩れたからです。
15年の石油の輸入額は14年比で6・6兆円減少しました。液化天然ガスも同2・3兆円減です。石炭の輸入額は11年以降減り続けており、5年間で5000億円近く減りました。15年の石油と石炭の輸入額は10年と比べても下回っています。
福島事故後の化石燃料の輸入額急増の最大の原因は、化石燃料の輸入量の増加ではなく、世界的な資源価格高騰と安倍晋三政権の「異次元の金融緩和」によって加速した円安です。そのことは、この間の化石燃料の輸入額と輸入量のずれに表れています。
福島事故後に石油と液化天然ガスの輸入額が最大になった14年を10年と比較すると、液化天然ガスは輸入額が2・26倍に膨らんだ一方で、輸入量は1・26倍の伸びにとどまりました。石油は、輸入額が1・5倍に急増しましたが、輸入量が10年を上回ったことは福島事故後一度もありません。
液化天然ガスの輸入量も、15年には福島事故後初めて減少に転じました。背景には、事故後に広まった省エネルギーの取り組みの定着と、太陽光を中心とした再生可能エネルギーの急速な普及があります。省エネと再生工ネの拡大が“国富流出”を防いでいるのです。
元凶は安倍政権
安倍政権や財界は、アベノミクスが円安を加速し化石燃料の輸入額を増やしたことには口をつぐんで、“国富流出”論をあおり、原発を合理化しようとしてきたのです。
そもそも、福島事故以降の化石燃料の輸入増加は、危険な原発に過度に依存してきた従来のエネルギー政策に最大の原因があります。安倍政権は危険な原発に固執しながら、再生エネの普及や省工ネの深掘りには背を向けています。石炭はじめ化石燃料依存も相変わらずです。“国富流出”の危険性を高めているのは安倍政権自身です。
(「しんぶん赤旗」2016年8月26日より転載)