津波の痕跡を示す津波堆積物の研究についての話題を載せた中学生向け教科書を見る機会がありました。今年から使われています。津波で海底や海岸から砂などが陸に運ばれ、残されたのが津波堆積物です。教科書には、2006年に仙台平野で見つかった弥生時代の水田跡にそれがあったと。津波は2000年前のもので、当時の海岸から2キロ以上も離れていた場所にありました。
1150年前の平安時代初期にも同じ地域が大津波に襲われたとする歴史書も紹介し、東北地方太平洋沖地震と同じ規模の地震や津波が繰り返し発生したのではないかと書いています。3・11以前から行われていた過去の津波に迫る研究です。
東京電力福島第1原発事故後に、政府の事故調査・検証委員会が行った吉田昌郎元所長の聴取書を思い出しました。津波堆積物の調査について吉田氏は「おれはそんな調査、信用できないなという話をした記憶があります」。
国会事故調の報告書にはこうあります。東電が津波堆積物調査を福島県沿岸で始めたのは、他の電力会社から「20年以上出遅れていた」。そして、第1原発の沖合を含む日本海溝沿いでのマグニチュード8クラスの地震の可能性を指摘した、政府の地震本部の長期評価などへの「対応の先延ばしを図った」と。
教科書を見せてくれた大学教員は「原発を動かすという社会的責任がなおざりだった」と話します。格別に不安材料が多いと指摘されながら、課題を置き去りにした伊方原発の再稼働にも通じます。
(「しんぶん赤旗」2016年8月22日より転載)