東京電力福島第1原発の放射能汚染水対策として1〜4号機周囲の地盤を凍らせる「凍土壁」(陸側遮水壁)は、運用開始から4カ月半がたちました。汚染水発生量の抑制という期待された効果は表れず、その見通しも立っていません。計画通りに凍っていない部分の凍結を促進する補助工事が、凍土壁の海側に続いて山側でも始まりました。
(唐沢俊治)
壁でなく「すだれ」
「本当に壁になるんですか。壁じゃなくて、すだれみたいなもので、(地下水が)ちょろちょろ通るとなると、ドライアップ(建屋内の汚染水除去)していけるのかという議論につながる」。6月に開かれた原子力規制委員会の検討会で、更田豊志委員長代理は、東電に対し不満を漏らしました。
高濃度汚染水がたまっている建屋には地下水が常に流れ込む状態が続き、汚染水を増やす要因になっています。この地下水の流れを遮断する目的で進めている凍土壁は現在、第1段階として、海側の全面と山側の大半を凍結させています。効果を確認しながら、第2段階として、山側の残りの7カ所(計約45メートル)を凍らせ完全閉合する計画です。(図)
ところが、想定通りに地盤の温度が下がらない箇所が多数あることが明らかに。「地下水を遮断する″氷の壁″はできるのか?」という疑問は、計画当初から指摘されていました。
計画外の補助工事
計画通りに凍っていない部分は、大きな石などを含み地下水の流れが速いため、温度低下が遅れているとみられます。東電は、凍結していない地盤の近くにセメント系の材料を注入することによって地下水流速を遅くするという、当初の計画になかった補助工事をせざるをえなくなりました。
海側の6カ所で工事を実施し、温度の低下が確認されています。8月10日からは、山側の1カ所でも工事に取り掛かりました。東電は、このほかの部分でも補助工事が必要かを検討しているといいます。
目標設定ようやく
凍土壁の効果をめぐり、東電はこれまで、地下水がせき止められることにより、凍土壁の上流と下流で地下水位差が生じているとして「効果は表れ始めている」と繰り返してきました。一方、規制委は、期待していた地下水くみ上げ量
の変化がないと指摘。議論の前進が見られませんでした。
規制委と東電は7月19日の検討会でようやく、建屋海側の護岸に設置した井戸(地下水ドレン、ウェルポイント)からの地下水くみ上げ量が1日当たり70〜100トンに減少することを数値目標として確認しました。
凍土壁の海側が完全閉合して地下水を100%遮断できると仮定すると、その下流にある護岸の井戸からのくみ上げ量が1日当たり約70トンになると予測しているからです。6月のくみ上げ量は、平均同約320トンでした。目標達成まで、かなりの期間がかかる見込みです。
ただ、凍土壁の効果を評価するのが難しい理由の1つとして、降雨の影響があります。東電によると、地下水は降雨に大きく左右されるため、雨の影響を除いた地下水位の変化を算出するのが困難といいます。大雨が続くと1カ月以上、原発構内の地下水位も上昇する傾向があります。規制委と東電はともに「様子見」だとしています。
凍土壁(陸側遮水壁)
1〜4号機の建屋周囲の地下に総延長的1500メートル、深さ的30メートルの“氷の壁”をつくり、地下水の流れを遮断して汚染水の発生量を抑制する計画。国費的345億円を投入。1メートル間隔で設置した凍結管に冷媒を循環させるため電力量は、年間4400万キロワット/時、維持費は年十数億円と見込んでいます。完全閉合されれば、汚染水発生量を大幅に抑制できる一方、建屋周囲の地下水位が下がりすぎると建屋内の汚染水が流出する恐れがあるため、地下水位の管理が最大の課題です。
(「しんぶん赤旗」2016年8月14日より転載)