熊本地震から4カ月になろうとしています。地震学からみた熊本での教訓と首都直下地震の備えについて、東京大学地震研究所の平田直教授(政府の地震調査委員会委員長)に聞きました。
(山沢猛)
—熊本地震の特徴、その教訓をどう見ていますか。
熊本地震では日本の基準で最大の震度7の揺れが益城町で2回ありました。1回目ではかろうじて保ったが、28時間後の2回目で倒壊した家屋がありました。2回目の震度7の揺れは、阪神・淡路大震災をもたらした兵庫県南部地震と同じマグニチュード(M=地震そのものの規模を表す単位)7・3でした。1回目のM6・5の10〜20倍のエネルギーが放出されたと考えられます。
前震のあとに大きな本震が来るのはめずらしくなく、5年前の東北地方太平洋沖地震のときには3月9日に前震があり、2日後の11日に本震が来ました。
大事なことは、最初の地震から2、3日の間には非常に強い揺れが起きうることを想定して安全な場所に逃げることです。
耐震化して備えていた建物はあったわけで、基本は地震が来ても壊れない強い家をつくっておくこと、個人でもそうですが、学校、体育館、病院、役所は震災の復旧、復興の拠点になる施設ですから、耐震化や免震化が大切です。今後の地震に備えてやれることはまだいっぱいあると思います。
国と自治体が・・危機に直面したときの備え 国と自治体の果たす役割は大きい
—個人も行政もどう地震に備えるかですね。
熊本地震は九州中部の二つの活断層、日奈久断層帯と布田川断層帯で起きましたが、地震学者が起きると予想していたところで起きました。しかし、住民からは「九州では豪雨はあるが、地震の被害は起きないと思っていた」という声が聞かれました。
地震の多い日本でも、一生のうちに震災にあうのはめずらしい。私も震災には1回もあっていません。1923年の関東大震災でひどい目にあったという人はもうわずかでしょう。実際に起きてから「まさかこの場で震災が起きるとは思わなかった」というのは普通の感覚だと思うべきです。
地震の発生の間隔は100年から数百年、活断層だと1000年とか1万年以上ですから、人間の感覚からいうと長い。人間の感覚では震災は来ないと思っているけれども、実は地震の可能性はこんなにあるということを伝えるのが、科学の仕事だと思います。
また、復旧や復興をいかにすばやく行えるかは、発災前から対策を準備したかにかかっています。災害は完全には防げないが、危機に直面したときの備えを事前に整えることはできます。その点で、国と自治体の果たす役割は大きいものがあります。5年たった今も大勢の人が不自由な暮らしを続けている東日本大震災などからいえることです。
—「震度6弱の地震は日本のどこでも起こりうる」と指摘していますが。
震度6弱とは木造の耐震化されていない家は倒壊する可能性があるという揺れです。建築基準法の改正で新耐震基準が定められた1981年以前に建てられ、何の対応もしていない家ならば倒壊します。全国で約8割の建物が耐震化されていますが、2割はなされていません。熊本の教訓からも急ぐ必要があります。
日本はどこでも耐震化されていない建物をつくってはいけない地域なのです。
20〜30年間隔・・M7クラス 平均して20〜30年に1回起きる
—首都直下地震はどういう仕組みで起きますか。その切迫性は。
首都圏にも立川断層とか三浦半島の活断層があるのですが、首都圏の住民が最近も経験する有感地震はそこではなく、フィリピン海プレート(岩盤)が相模湾トラフ(深海底の溝)から沈み込むことによって起きる地震です。
プレートの沈み込みによる地震で最大級のM9が5年前の東北地方太平洋沖地震であり、予想される南海トラフを震源とする地震もそうです。しかし、首都直下地震はそれとは別のものです。
1923年の関東大震災(死者10万5000人)を起こした大正関東地震はM7・9、およそM8で、同じようにひとつ前の関東地震が1703年の元禄関東地震ですが、いずれもプレート境界で起きた巨大地震です。そういう地震はもちろん将来起きますが、M8クラスはしょっちゅう起きるわけではない。大正地震と元禄地震との間隔は220年、元禄地震とその前の地震は300〜400年ですから、短くても200年の間隔です。そう考えるとM8クラスはあと100年くらいは起きそうにもない。
ただM7という熊本地震、兵庫県南部地震と同じ規模の地震はたくさん起きています。
明治時代から現在まで5回、元禄地震からかぞえると8回です。100年余で5回、200年で8〜9回です。ただM7クラスは不規則です。平均して20〜30年に1回起きる現象なのです。
—首都直下地震への備えはどうですか。
予想される首都直下地震、兵庫県南部地震、熊本地震も、自然現象としては同じ程度の地震ですが、震災の被害は非常に違います。
人口が集まっている平野はかつて海底にあった堆積物が固まった堆積岩でできています。堆積岩はマグマが固まった火成岩に比べると「やわらかい」岩石です。首都圏、大阪、名古屋なども堆積層の上にあります。とくに関東平野は3000メートルの堆積層があって、その下に火成岩層があります。富士山の噴火物からなる関東ローム層は堆積層の一部です。
地震が起きやすいだけでなく「地盤が揺れやすい」のです。
火災死減らせ・・公共の福祉の観点から公的な資金を投入して街づくりを
中央防災会議は、都心南部の直下地震による死者は最大2万3000人にのぼり、そのうち70%が火災によるもので、全壊・全焼失は61万棟と予想しています。これは対策によって減らすことが可能です。
電気関係の火災などで甚大な被害が想定される木造密集地域は「下町に多い」と思われていますが、下町は関東大震災と空襲でほとんど焼けており、むしろ避難した人々が移り住んだ山手線の外側、一部内側が多い。東京区部の11%にあたる7000ヘクタールが木造密集地域といわれます。
この地域では、個人の努力だけでは解決できません。家は個人財産だからというにとどめずに″公共の福祉″の観点から公的な資金を投入して街づくりをする必要があると私は思っています。
熊本で起きた地震は特別なものではなく、全国どこでも起こりうること、とりわけ首都圏では確率が高いことを肝に銘じて備えることが必要です。
(「しんぶん赤旗」2016年8月12日より転載)