熊本地震をめぐって、現在の建築基準法などが繰り返し強い地震に見舞われることを考虚していない問題が注目されていますが、原発の規制基準でも同様の問題が指摘されています。特に原子炉建屋など鉄筋コンクリート製構造物では、地震の揺れで構造物の硬さ(剛性)が低下するため、原発の安全上大きな問題であると専門家が警鐘を鳴らしています。
(松沼環)
地震による剛性の低下は、2011年の東北地方太平洋沖地震の被害を受けた東北電力女川原発2、3号機(宮城県)の原子炉建屋でも、実際に問題になりました。
当初と比べ5割以下に
2号機原子炉建屋の場合、建屋内に設置された地震計の記録から、運転開始直前の1994年の北海道東方沖地震時と2011年3月11日の地震時を比べると、建屋の「固有振動数」が7割以下に低下していることが分かりました。構造物の剛性は、固有振動数の2乗に比例することから、女川原発2号機原子炉建屋の剛性は、建設当初と比べ全体で5割以下に低下したことになります。
11年に聞かれた旧原子力安全・保安院の意見聴取会で、東北電が剛性低下の理由を度重なる地震の影響との見解を示しています。女川原発は、東北地方太平洋沖地震以前に03年、05年に宮城県沖地震などに見舞われてきました。
「一般に鉄筋コンクリートの構造物は、震度7のような強い揺れでなくても内部に小さな割れ目が生じ、剛性が低下する。剛性低下により、固有振動数が小さくなり、設計で考慮していた揺れ方が大きく変わる」と話すのは、元原発設計者の後藤政志さん。「耐震裕度を評価する際、材料強度や剛性などを設計基準値ではなく、実力値(実際の強度など)を用いて十分な強度があると説明している事例が多々あるが、コンクリートの実際の剛性は地震動の増加と共に全く反対の傾向を示していることが危惧される」と説明します。
香川県にかつてあった多度津工学試験所では、8分の1サイズの鉄筋コンクリート製格納容器のモデルで加振試験が行われていました。実験の結果は、最大加速度562ガルの揺れを加えると固有振動数が71%に低下。さらに加速度を増減させて加振を繰り返すと固有振動数は19%まで低下しました。
機器や配管 揺れも変化
この固有振動数の変化は、コンクリート構造物そのものの耐震性評価に大きく影響します。建屋などの揺れ方(応答)が変化することで、中にある機器や配管の揺れも変化します。
問題は、こうしたことを考慮せずに強い地震が繰り返し原発を襲うと、どうなるかです。それまでの地震で剛性が低下したところに、再び地震が襲うと、建屋の変形が設計想定より大幅に大きくなり、損傷の可能性が大きくなります。また、固有振動数の低下に伴い、使用済み燃料プールや原子炉格納容器の圧力抑制プールの水面動揺(スロッシングという)が大きくなる可能性があります。基礎に伝わる地震の揺れが想定の範囲内であった場合でも、建屋の中の機器、配管は想定していない揺れとなる可能性があるのです。
原発は停止しても、炉心は崩壊熱を出し続けます。強い揺れで原子炉が緊急停止できても、短時間に再び強震が襲い、「冷やし」「閉じ込める」機能が損なわれれば事故につながります。福島第1原発事故も停止後、冷却機能を失って大事故に発展しました。
後藤さんは「熊本地震のような場合や、強い余震の可能性を考えれば、剛性が低下し、固有振動数が低下した場合の耐震性を事前に確認しておく必要がある。現在の規制基準にはこの問題がまったく考慮されていない」と指摘しています。
固有振動数→物体に衝撃を与えた場合、その物体ごとに決まった振動数で揺れます。この時の振動数を物体の固有振動数といいます。建物の場合、一般に高さが高いほど固有振動数が小さくなります。建物の硬さ(剛性)が低下すると固有振動数も小さくなります。
(「しんぶん赤旗」2016年7月11日より転載)