東電福島第1原発事故から5年が経過した。今、事故によるさまざまな被害がなかったことやなくなったことにされ、被害の矮小化(わいしょうか)が進んでいる。
被害の切り捨ての最前線に立たされているのは、いわゆる「自主避難者」である。一般に「自主避難者」とは、政府による避難指示がない地域から原発事故により避難を実行した者を指す。「自主避難者」は、賠償において、政府による避難指示を受けた地域からの避難者と徹底的に差別されており、基本的にすずめの涙ほどの賠償しかなされていない。そのため、経済的な困窮の中で避難生活を余儀なくされている。
住宅無償提供・・大幅なる後退
そうした「自主避難者」の苦しみに焦点をあてたのが、吉田千亜著『ルポ 母子避難』(岩波新書・760円)である。本書は、避難をした母親たちが子どもを守りたい一心で避難をしたものの、賠償や行政による支援を満足に受けられず、避難のストレスにより、精神的に追い詰められている様子を明らかにしている。
東日本大震災で災害救助法が適用されたことにより、全国の公営住宅や民間賃貸住宅も「みなし仮設住宅」として無償提供されてきた。この住宅無償提供は、原発事故避難者の生命線となっているが、福島県は2017年3月末をもって、「自主避難者」の住宅無償提供を打ち切ることを決定した。
福島県は、打ち切り後も「自主避難者」への家賃補助制度を一定期間実施するが、住宅無償提供と比較をすれば、大幅な制度後退となることは否定できない。
「復興」を偽る強引な帰還策
政府の原発事故避難者に対する政策の不合理に焦点をあてたのが、日野行介著『原発棄民』(毎日新聞出版・1400円)である。
本書は「災害において、被災地の復興と被災者の生活再建は完全には重ならない。・・原発事故では広域で長期の避難と加害者(賠償)の存在が加わり、重ならない範囲がさらに広がる」という重要な指摘をしている。
「自主避難者」は、被ばくに対する健康不安から身を守るために避難をしたのであるから、汚染された地域に帰還するのではなく、避難先で生活再建をしたいと考えるのは当然と言える。
原発事故避難者の帰還を強引に推し進めようとする政策は、偽りの復興と言わざるを得ない。
『福島を切り捨てるのですか』(かもがわブックレット・600円)は、国と東電の原発事故の責任を追及する生業訴訟原告団・弁護団と白井聡の共著である。国と東電は、これまで原発事故の法的責任を一貫して否定している。
本書は、国と東電の被害者救済に対する姿勢を改めさせるためには、両者の原発事故の法的責任を明らかにすることが重要であると訴えている。
(すずき・まさき 弁護士)
(「しんぶん赤旗」2016年7月10日より転載)