原子力規制委員会が行政訴訟に対応するため原発の新規制基準に関して内容や根拠となる考え方について解説した資料「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」を作成しました。6月29日の定例会で公表されました。その内容について専門家が、批判しています。
(松沼環)
田中俊一委員長は資料について、「訴訟は毎日のように報告が来ています。そういうところで使える資料ということでまとめていただいた」と規制委の定例会合で説明しています。規制委は現在、許認可などに関する16件の訴訟を起こされており、うち13件が原発にかかわるものです。
「考え方」は、Q&A方式で施設・設備に関係する事項を中心に25問からなります。内容は専門技術的裁量、規則の策定経緯、国際原子力機関の安全基準との関係、深層防護など。規制委は今後、複数回に分けて作成し、地震などについても作成する予定です。
1問目の規制委の裁量に関する項目では、「『絶対的な安全性』というものは、達成することも要求することもできない」と明言。危険を秘めた科学技術の利用として、エネルギーの利用や巨大な建築物、自動車、航空機を列挙し、現代の社会生活が、相対的安全性の理念を容認することによって成り立っていると主張しています。
しかしこの主張は、原発の持つ潜在的危険性の大きさや特異性を無視したものです。2014年の関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた福井地裁判決では、大きな自然災害や戦争以外で、根源的権利である人格権が「極めて広範に奪われるという事態を招く可能性があるのは原子力発電所の事故のほかは想定し難い」と指摘しています。
「考え方」はさらに、原子炉等規制法で、原発の位置、構造および設備に求める「災害の防止上支障がないもの」とは、「どのような異常事態が生じても、発重用原子炉施設内の放射性物質が外部の環境に放出されることは絶対にないといった達成不可能な安全性をいうものではなく・・相対的安全性を前提とした安全性を備えていることをいうものと解するのが相当」としています。
その上で、安全性の水準については、規制委が「時々の最新の科学技術水準に従い、かつ、社会がどの程度の危険までを容認するかなどの事情をも見定めて、専門技術的裁量により選び取る」と述べています。
高浜原発3、4号機の運転差し止め訴訟の弁護団長、井戸謙一弁護士は「専門家にはどの程度のリスクがあるかを数字で説明することはできるかもしれない。しかし、専門家ができるのはそこまでであって、そのリスクを受け入れるかどうかは、市民の側が決めることだ」と述べ、規制委の主張の問題点を指摘しています。
極めて独断的・・元中央大学教授(核燃料化学)舘野淳さん
規制委員会は絶対の安全は保証できないとしていますが、ではどのような根拠で軽水炉の利用に認可を与えるのか、事故が起きた場合の認可責任はどのようにとるのか明確にすべきです。
改正以前の原子炉等規制法では、重大事故は起こり得ないとして、多くの原発を許可してきました。福島事故で前提が崩れたのだから、国会に特別委員会のようなものを設置し①軽水炉の安全性②規制システム③原発(軽水炉)利用の可否④核燃料サイクル問題などについて抜本的検討を行い、国民的合意形成の努力が行われるべきでした。
しかし、十分な国民の合意を得ないままに規制基準が作成され、いつの間にか規制委が「裁量権を持つ」と宣言しています。これは国民の生命財産を守るという原子炉等規制法の精神からも不当と言わざるを得ません。
「社会がどの程度の危険までを容認するかなどの事情をも見定めて、専門技術的裁量により選び取る」と、極めてあいまいな事柄を極めて独断的に述べています。それでは規制委員会が選びとった安全性とはどのようなものか、また社会の容認する危険とは具体的にどのようなものか、せめてそれだけでも明確にすべきです。
(「しんぶん赤旗」2016年7月4日より転載)