地球温暖化で北極圏の永久凍土が融解すると、そこにいる微生物が活発に活動を始め、大気中に二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスをどんどん放出し、温暖化をさらに加速する可能性があることがわかりました。北極圏の永久凍土を使って実験した米ノーザンアリゾナ大学などの国際研究グループが、科学誌『ネイチャー・クライメート・チェンジ』(6月13日付)に発表しました。
北極圏には夏でも土壌が凍ったままでほとんど解けない永久凍土地帯が広がっています。内部には大昔に死んだ植物や動物の体が完全に分解されないまま有機物として大量に存在しています。有機物に含まれる炭素の量は、現在大気中に存在する二酸化炭素などを構成する炭素の2倍にのぼると見積もられています。
8・3度上昇
地球温暖化は北極圏で特に大きな影響が出るとみられ、北極圏では最悪の場合、今世紀末の気温が今世紀初めより8・3度上昇すると予測されています。そうなった場合、永久凍土の表面が大規模に解けだし、解けた水が低いところにたまって湿地帯をつくる一方、高いところは土壌の水が抜けて乾燥すると考えられます。湿地帯では、有機物はいままで通り空気に触れませんが、乾燥してしまうと空気にさらされることになります。
研究グループは、地球温暖化の進行を想定し、温度上昇や乾燥化によって永久凍土に含まれる有機物がどうなるか調べました。アラスカ(米国)やカナダ、ロシアの北極圏にある永久凍土地帯25ヵ所で土壌を採取し、自然状態より温度を10度上げた場合と乾燥させた場合の二酸化炭素とメタンの放出量の違いを比較しました。
その結果、温度を10度上げると二酸化炭素とメタンの放出量は自然状態よりも2倍になり、乾燥させると3・4倍になることがわかりました。こうした傾向は、土壌を採取した地域の違いや、針葉樹林やツンドラなど植生の違いにかかわらず同じでした。
有機物が分解
放出量増加の″犯人″は微生物です。永久凍土が解けると微生物による有機物の分解が始まりますが、そこが湿っているか乾燥しているかで、働く微生物の種類が違うので、生成する温室効果ガスの種類も違ってきます。メタンは、二酸化炭素よりも強力な温室効果を持ちます。地球温暖化の進行で北極圏の永久凍土が大規模に解けた場合、湿地帯と乾燥した場所の比率がどうなるかはっきりしていないため、さらに研究が必要だといいます。
研究グループは「(北極圏の永久凍土に含まれている有機炭素の量から考えて)そこに起こる小さな変化も大きな影響を及ぼすだろう」と警告しています。
(「しんぶん赤旗」2016年6月19日より転載)