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高浜3、4号報告書「県専門委は再考を」・・科学者会議福井支部が要請

kagakusya-fukui06-5-17 日本科学者会議福井支部は5月17日、関西電力高浜原発3、4号機の安全性を検証した県原子力安全専門委員会の報告書に多くの問題があるとして、報告書を再検討するよう申し入れました。

 県専門委は昨年(2015年)12月、2基について「工学的な安全性が向上しており、必要な対策は確保できている」とする報告書をまとめました。申し入れでは、高浜4号機の緊急停止や運転差し止めを命じた大津地裁の仮処分決定を踏まえ、「科学的検討をしないまま知事の再稼働判断にお墨付きを与えた」と批判しています。

 問題点を指摘したのは、①電気ケーブル不正敷設問題について、県専門委の責任で、県が関電に再稼働中断を要求し、具体的に調査し、結果を公表すること、②免震機能を持つ緊急時対策所ができるまで再稼働しないよう関電に求めるべき、③過酷事故時に欠かせないベントシステムの設置計画について、その有効性の審査・検討を行い、公表すること、④具体的な住民避難計画の検討と立案を求め、公表すること⑤地震・津波対策に関わる断層調査などが不十分、⑥使用済み燃料プールのテロ対策の有効性が検討されていない・・などの10項目。

 同支部事務局の森透、山本富士夫・両福井大名誉教授、山本雅彦・科学者会議原子力問題研究委員会委員の3人が県庁を訪問。県専門委事務局の県原子力安全対策課職員に申し入れ書を手渡し「文書などで回答をいただきたい」と求めました。

 

基準地震動の過小評価に加え、繰り返しの“強い揺れ”は想定していない

 「しんぶん赤旗」5月18日付けによれば、内陸地殻地震である熊本地震では、震度7が2回、震度5弱以上も18回発生し、繰り返される強い地震動(強い揺れ)に対する原発の耐震性が心配されています。原発が基準地震動に近い強い揺れに繰り返しみまわれたときの耐震性について問われた規制委の田中俊一委員長は、「弾性範囲にある分には5回、10回、100回ぐらい繰り返したって何も起こらない」、「変形が出るような構造物もゼロではないということだが、安全上に影響を及ぼすことはないと思います」(4月20日)と答えています。

 物体にある力を加えたとき、力を加えるのをやめれば元に戻る場合を「弾性範囲にある」といいます。加える力がある限界を超えると、力を取り除いても元に戻らなくなる塑性(そせい)変形を起こします。原発の耐震性に関する評価ガイドは、基準地震動に対して弾性範囲であることを求めていません。ガイドは、基準地震動に対して「安全機能が保持できること」を要求。基準地震動の半分を下回らないようにと定める地震動に対して「おおむね弾性状態に留まる範囲で耐える」ことを求めており、ここでも部分的に弾性範囲を超えることが許されています。

 安全上重要な機器が基準地震動に対して弾性範囲を超えている場合、通常、力を繰り返し受けることによる材料の疲労を評価し、安全機能が保持されるかを確認します。この場合、力のかかる回数が評価に直接影響するといいます。

 高浜原発の基準地震動700ガル(ガルは加速度の単位)、大飯原発の同856ガルは、周辺の活断層や断層帯の見落としや、地震発生層の深さの地下構造などの未掌握などあり過小評価です。

 元原発設計者の後藤政志氏によると、「九電の評価でも川内原発で、基準地震動に対して弾性範囲を超えてしまった機器が多くあり、余裕があるとはいえない。原発の疲労評価では、熊本地震のように繰り返し強い地震に見舞われることは想定していない」と強調します。

(2016年5月18日、山本雅彦)

 

申入の全文

高浜原発3、4号機についての申入書

 

福井県原子力安全専門委員会

  委員長 中川 英之 殿

  委員各位      

                      2016年5月17日

日本科学者会議福井支部

 関西電力(株)高浜原発3、4号機について、「安全性を独自に検証してきた」とされる福井県原子力安全専門委員会は、昨年12月19日、「工学的な安全性が向上しており、必要な対策は確保できている」とする報告書を西川一誠知事に提出。それを受けた知事は、「安全性は一段と高まっていると感じた」と述べ再稼働に同意した。

 これは、科学的検討をしないまま知事の再稼働の判断にお墨付きを与えたものと考えざるを得ない。実際、その後も新規制基準に違反する電気ケーブル問題や高浜4号機の冷却水漏えい事故と原子炉の緊急停止トラブルなどが起きている。こうした中、今年の3月9日に大津地裁の高浜3、4号機の仮処分差止決定が出され、同3号機は司法の力で停止した。これら基準違反や司法の差止決定に加え、トラブルが続いているにもかかわらず、県と専門委が再稼働を認めた責任は重大である。

 私たちは科学者の団体として、原発の安全・安心の立場から様々な提言や提案をしてきた。今次の再稼働問題についても、貴委員会をたびたび傍聴し、議事録を精査するなどを行ってきた。その結果、もっと慎重に調査・検討すべき課題や軽視されている問題、あるいは見過ごされている問題を多々指摘せざるを得ない。また、委員会運営上の課題も浮かび上がってきている。

 私たちは、貴委員会に、以下に指摘しまとめた諸課題・諸問題について、さらに調査・検討し、上記の報告書について再考と再検討を求める。

【緊急の課題】

 ①貴委員会は、電気ケーブル不正敷設問題について、貴委員会の責任において、県に再稼働中断を要求し、具体的に調査し、結果を公表すること。

 この問題は、貴委員会が報告書を提出した後に、規制委員会がすべての事業者に報告を求めたものである。ところが、原発の安全性にかかわる重大問題であるにも関わらず、高浜原発3、4号機と稼働中の川内原発については調査報告が免除されている。しかし、もし稼働中に火災が発生すれば重大事故は避けられない。高浜3、4号機の再稼働について、貴委員会は、貴委員会の責任において調査をし、その結果によって判断すべきである。

【深層防護の課題・・4層と5層について】

 ②貴委員会は、免震機能を有する緊急時対策所の完成まで、再稼働をしないよう関電に求めること。

 関電は、福島事故の教訓を踏まえ免震構造で放射線遮へい性能等を有した免震事務棟を設置すると説明してきたが、その後、設置は自主的計画とされた。貴委員会は、関電が免震機能を有しない1〜4号機共用の緊急時対策所(18年初旬に運用開始)を造ることで了解しているが、新基準では免震機能を求めており、新基準に違反する。規制委ではその建設を5年間猶予してはいるが、関電が免震機能を有する緊急時対策所の建設計画を持っていないことは重大な問題である。緊急時対策所は、緊急時には中央制御室に代わる重要施設であり、免震機能を有する緊急時対策所の完成なしに再稼働しないよう関電に求めるべきである。

 ③過酷事故時に欠かせないベントシステムの設置計画について、その有効性の審査・検討を行い、可能な限り公表すること。

 過酷事故時に、炉心冷却の確保と放射能拡散防止に欠かせないフイルター付き格納容器ベントの設置について貴委員会は、「特定重大事故等対処施設の設備の一つとして位置づけたことから、・・(中略)・・(テロ対策や核物質防護等の観点から)詳細な情報については、非公開の扱いとなった」ことを理由に、有効性の審査・検討を行わなかった。また、規制委では設置を5年間猶予しているが、コアキャッチャーが設置されていない高浜原発で炉心溶融事故が起きればフクシマの二の舞になりかねない。よって、有効なベントシステムの設置なしに再稼働しないよう関電に求めるべきである。

 ④貴委員会は、住民避難計画について、関電および県・関係自治体に、対象の住民及び避難先自治体の受け入れ体制を含む具体的な住民避難計画の検討と立案を求め、貴委員会の責任において公表すること。これは、「住民の安全を守る立場から事業者を厳しく監視」し「安全性を独自に検証してきた」貴委員会の責務であろう。

 深層防護の最後の砦である5層にあたる住民避難について、ヨウ素剤の配備も含め貴委員会はまったく審査・検討していない。これでは、貴委員会の事務局である県原子力安全対策課が述べている「住民の安全を守る立場から事業者を厳しく監視する」「安全性を独自に検証してきた」との言葉との間に大きな乖離があるといわざるを得ない。原発から30キロ圏内の住民及び、避難先自治体の受け入れ体制を含む実効性ある住民避難計画が作成された上で、周辺住民に説明し実効性ある避難訓練が実施・検証され、その住民の合意が得られるまでは再稼働しないよう関電に求めるべきである。

【深層防護の課題・・1層〜3層について】

 ⑤地震対策に関わる断層調査が不十分であり、特に原発周辺の地下構造の調査が全く行われていない。貴委員会は、「安全性を独自に検証」するために、関電、規制委員会、国などにその調査を求め、その結果に基づき地震対策について審査・検討し、公表すること。

 地震対策について田島俊彦委員は、多くの学者が地震の活動期に入ったと指摘していると話した上で、「基準地震動700ガルについて、岩手・宮城内陸地震で3,866ガルと4,022ガルが記録されている。・・謙虚になり、真剣に考えてはどうか」と述べた。これに対し、中川委員長は「高浜と比較するのは学問的でない。・・飛躍している」と反論した。しかし、基準地震動を決める場合、若狭の原発周辺の地下構造を掌握することは地震学・地質学では常識である。ところが、原発周辺の上林川断層帯と山田断層帯、Fo-A〜Fo-B〜熊川断層などがどこまで達しているか、地震発生層といわれる5〜20キロの深さについては地下構造の調査がおこなわれておらず、貴委員会でも全く審査・検討されていない。

 貴委員会は、関電や規制委、国にそれらの調査を求め、その結果から貴委員会の責任において審査・検討し、公表するべきである。

 ⑥若狭湾周辺には津波に関わる可能性のある多数の断層がある。貴委員会は、この地域の断層地下構造の調査とともに、山体崩壊、深層崩壊などの可能性について調査・検証することを関電や規制委、国に求め、その結果に基づき津波対策について審査・検討し、公表すること。

 津波対策について貴委員会は、「関電は、発電所周辺の断層や地盤構造の調査結果等をもとに基準地震動、基準津波を策定したが、今後も、地震に係る学術論文や研究成果等の知見を引き続き収集し、地震動評価等に反映させていくことが重要である」と述べているが、最新の知見で審査・検討されていない。

 若狭地域周辺の断層は、Fo-A〜Fo-B〜熊川断層、敦賀断層、B断層〜野坂層という断層域に囲まれたブロックと、Fo-A〜Fo-B〜熊川断層、上林川断層、山田断層帯という断層域に囲まれたブロックで構成された共役断層帯で、この2つのブロックも東西方向に圧縮されて鋭角の方向と鈍角の方向に菱形に割れ、そのとき地震が発生する。この地震が湾内で起こる場合、津波は沖からくるのでなく、地盤ブロックの湾底の上昇、または陥没で起こる。また、リアス式海岸の影響で津波の海水の動きは複雑となり、局所的に水面が異常に高くなる場合もある。さらに、原発の直近の津波の場合は、ブロック境界断層の活動により地震が発生するため、津波発生と襲来までの時間は極めて短時間である。ちなみに1026年「万寿地震」で20メートルを超える「万寿津波」が島根県益田周辺を襲ったという文献が残されており、福井県でも大津波について文献などの中に痕跡が多くある。
  特に最近(15年5月24日発表)になって、高浜町の若狭湾沿いの地層から、14~16世紀頃の津波の痕跡とみられる堆積物を、福井大学の山本博文教授 (地質学)らが見つけた。若狭湾沿岸は1586年の天正地震で津波に襲われたと伝える記録がある。それによれば、天正地震当時、日本に滞在していた宣教師ルイス・フロイスは「日本史」という文献に、若狭湾で「大波が猛烈な勢いで押し寄せて町を襲い、ほとんど痕跡をとどめないまでに破壊した」と書き 残しており、その発生を裏付ける地質上の証拠となる可能性がある。

 この地域について、5〜20キロの深さの地震発生層の調査はもちろんのこと、山体崩壊、深層崩壊など十分に調査・検証することを関電や規制委、国に求め、その結果から津波対策について審査・検討し、公表することは、貴委員会の責務であろう。

【その他】

 ⑦使用済核燃料プールが堅牢な施設に囲われていないための対策がテロ対策との関連で非公開となったため、その対策の有効性が貴委員会で全く検討されていない。貴委員会は、規制委、国にその対策の情報提供を求め、その有効性を検討・確認すること。

 使用済核燃料プールが補助建屋にあり、堅牢な施設に囲われていないことについて、田島委員が航空機の落下事故の確率に関連して、「テロリズムの方が意図的であるためもっと確率が高くなる。それに対して対策はしなくてよいのか」(昨年5月7日)と質問した。しかし、規制庁の天野安全規制官補佐は、「なにぶんテロ対策の機密な情報」と述べ、非公開の扱いとなった。そのため、貴委員会での十分な審査・検討はできなかった。この問題は複数の委員が疑問や異論を述べており、すべての対策が公開され、有効性が確認されるまで再稼働は中止するよう関電と規制委、国に求めることが必要である。

 ⑧過酷事故時の課題について、現状では検討が極めて不十分である。貴委員会は、実効性のある放射性物質拡散防止対策、高濃度汚染水対策について調査・検討し、その立案と実施を、関電と規制委、国に強く求めること。

 汚染水対策について、設置許可基準の第55条で、過酷事故が発生したときに「放射性物質の拡散を抑制するために必要な設備を設けなければならない」と定めており、規制庁職員は「格納容器から漏れ出る気体の放射能を放水砲で打ち落とし、汚染水となった水は、シルトフェンスで海への拡散を抑制することを確認しています」と説明している。しかし、昨年3月6日の貴委員会では、田島委員から「シルトフェンスの穴は原子と比べると大きな穴で、あってないようなもので拡散する」との指摘があった。シルトフェンスの放射能拡散抑制機能は一時的なものであって、極めて疑問である。

 また、過酷事故時に格納容器内に大量に溜まる高濃度の汚染水対策について、一時貯水タンクの設置場所が確保できないことなど、貴委員会で十分に審査・検討されていない。一昨年11月20日の貴委員会では岩崎行玄委員が、「(こうした注水設備を設置する際には)高濃度の汚染水を処理するところまでセットで計画を立てていただきたい」と述べている。汚染水対策がないもとでの再稼働は中止するよう関電と規制委、国に求めることは、貴委員会の責務である。

 ⑨プルサーマル運転については規制委の審査基準がない。さらに、使用済MOX燃料の再処理方針は決まっていない。貴委員会は、そのような状況下での再稼働を認めるべきではない。

 高浜3、4号機ではプルサーマル運転を前提に再稼働がすすめられようとしている。しかし、新基準でプルサーマルの安全性を評価する審査基準(規則・ガイド)はなく、貴委員会でもまったく審査していない。また、使用済MOX燃料は再処理の方法が決まっておらず持ち出す所がない。半永久的に高浜に置かれることになり危険がさらに増すことになる。危険で見通しがないプルサーマル運転はやめるよう、関電に求めるべきである。

 ⑩過酷事故時の放射性物質の環境への放出量について、貴委員会は、規制委任せではなく、独自の調査を行い、福島事故の教訓に学んで、十分に審査・検討し、広く公表すること。

 過酷事故時の高浜原発からの放射性物質の放出量について、「原子力規制委員会が新規性基準で求めた様々な対策により、環境への放射性物質 (セシウム137)の放出量は7日間で4・2テラベクレル程度、すなわち福島原発事故と比べて 3桁低いレベルに抑えられる」(京都府主催:第4回高浜発電所に係る地域協議会:内閣府 参考資料2)と説明している。これは、住民の避難計画に関係し過小評価であれば住民に多大な被ばくを強いることになるにもかかわらず、貴委員会ではほとんど検討されていない。貴委員会は、福島事故の教訓に学び、十分に審査・検討を行うことが、「住民の安全を守る立場から事業者を厳しく監視する」「安全性を独自に検証してきた」貴委員会としての責務である。

以上