熊本地震は発生から1カ月過ぎ、これまでの日本の災害対策では想定されていない、活発な余震活動などが観測されています。震源から約80キロには九州電力川内(せんだい)原発が全国で唯一稼働を続けており、地元をはじめ全国から運転を止めてという声が上がっていますが、原子力規制委員会は、安全上の問題があると判断していないと主張しています。熊本地震の実態から、原発の規制基準の問題点がさらに明らかになってきました。
(松沼環)
複雑な活動
熊本地震では、4月14日のマグニチュード(M)6・5の地震に続いて16日のM7・3の地震が発生、人が感じられる余震はすでに1400回を超え、内陸地震で日本の観測史上最多だった2004年の中越地震を上回る余震が観測されています。さらに4月16日以降、活動は広域化。九州を横断する120キロを超える地域で震源が移動しています。
立石雅昭新潟大学名誉教授は、「大きな余震がなぜ活発なのかわかりませんし、震源がこれからどう移動するのか、予測できません。川内原発の近傍には市来断層帯、甑(こしき)断層帯が分布している。これらの断層が刺激され地震が発生する危険性もある。少なくとも川内原発は停止した上で検証すべき」と指摘しています。
熊本地震は断層評価の難しさも示しました。
16日の地震の震源とされる布田川(ふたがわ)断層帯の北西の延長線上に、これまで活断層が見つかっていなかった阿蘇山北部に断層活動によると見られる地表のずれが見つかりました。また、布田川断層の北東部で枝分かれする分岐断層も発見されました。
立石氏は「事業者の調査に頼った原発の断層評価は不十分です。再調査が必要です」と話します。
繰り返す
熊本地震の一連の地震活動では、震度7が2度、震度5弱以上も18回発生しています。繰り返される強い地震動(揺れ)に対する原発の耐震性が懸念されています。
原子力規制委員会の田中俊一委員長は会見で、基準地震動(原発で想定する最大の地震動)レベルの地震が繰り返された場合の原発の耐震性を問われ、「弾性範囲にある分には5回、10回、100回ぐらい繰り返したって何も起こらない」、「変形が出るような構造物もゼロではないということだが、安全上に影響を及ぼすことはないと思います」(4月20日)と答えています。
物体に力を加えたとき、力を加えるのをやめれば元に戻る場合を「弾性範囲にある」といいます。加える力がある限界を超えると、力を取り除いても元に戻らなくなる塑性(そせい)変形を起こします。
原発の耐震性に関する評価ガイドは、基準地震動に対して弾性範囲であることを求めていません。
ガイドは、基準地震動に対して「安全機能が保持できること」を要求。基準地震動の半分を下回らないようにと定める地震動に対して「おおむね弾性状態に留まる範囲で耐える」ことを求めており、ここでも部分的に弾性範囲を超えることが許されているのです。
安全上重要な機器が基準地震動に対して弾性範囲を超えている場合、通常、力を繰り返し受けることによる材料の疲労を評価し、安全機能が保持されるかを確認します。この場合、力のかかる回数が評価に直接影響します。
元原発設計者の後藤政志さんは、川内原発の基準地震動620ガル(ガルは加速度の単位)は過小評価だと指摘。「九電の評価でも川内原発で、基準地震動に対して弾性範囲を超えてしまった機器が多くあり、余裕があるとはいえない。原発の疲労評価では、熊本地震のように繰り返し強い地震に見舞われることは想定していない」と強調します。
(「しんぶん赤旗」2016年5月18日より転載)
規制基準は欠陥明白・・原子力市民委 規制委に見直し要求
原子力市民委員会は5月17日、都内で会見を開き、「熊本地震を教訓に原子力規制委員会は新規制基準を全面的に見直すべきである」との声明を発表、規制委に送付しました。
声明は、熊本地震を受けて新規制基準の欠陥が明白となったと指摘。一刻も早く新規制基準を見直すべきであり、新規制基準の改定が済むまで、稼働中の九州電力川内(せんだい)原発1、2号機は安全性が確保されていないことから、停止させるべきと主張しています。
また、他の原発についても、これまでの設置変更許可を凍結し、既存原発に新たな規制基準への適用を求める「バックフィット規則」に基づき、新たな規制基準で審査するべきだとしています。
規制基準の欠陥として、①地域防災計画が、複合災害では機能しない上に、その審査が規制要求になっていないこと②耐震設計審査基準が不十分であり、「繰り返し地震」を想定していないこと‐‐の2点を指摘しています。
会見で市民委員会の吉岡斉座長は「バックフィットルールを最大限活用して、今の新規制基準で合格しても(基準が新しくなったら)、それは無効だと言いたい」と述べました。
(「しんぶん赤旗」2016年5月18日より転載)
九電 「免震」を「耐震」に変更・・玄海原発の事故対応拠点
九州電力の山本春義取締役は5月17日、佐賀県庁に副島良彦副知事を訪ね、玄海原発(佐賀県玄海町)に建設を計画していた重大事故時の対応拠点について、免震重要棟から緊急時対策所(耐震施設)へ切り替える方針を報告しました。
山本氏は報告の冒頭、「説明不足で混乱を招いた。深く反省している」とのべ、切り替えた理由については「緊急時対策所に変更することにより、スペースを広くし、安全性が確保できる」などと説明しました。
免震棟は地面と建物の間にゴムなど地震の揺れを吸収する緩衝装置をつけた建物で、福島第1原発事故では対策拠点になりました。
報告後、山本氏は記者団から「熊本地震のような震度7ほどの揺れでも大丈夫か」と問われ、「原発近くで起きるかは仮定の話。基準地震動の中だったら問題はない」と答えました。
(「しんぶん赤旗」2016年5月19日より転載)