東京電力福島第1原発事故で放出された放射性物質による環境汚染への対処で、国や地方自治体が行う除染などの費用は、「原子力損害の賠償に関する法律」等で東電が負担するとされます。ところが、4月に発表された会計検査院の報告書のなかで、2011年度~14年度の4カ年度の除染などの事業実施済額で、国が東電に対して費用請求をしていなかったのは約4800億円にのぼることがわかりました。
福島第1原発事故に対処するために国などが実施した事業費用のうち、事故との相当因果関係があると認められる損害にかかる費用については、「(東電は)国及び地方公共団体(地方自治体)からの求償(賠償請求)に基づき、その内容等を確認した上で支払っている」とされます。報告書には国が東電に対して求償を適切に行っているかを把握するために、国が支出した原子力災害関係経費についての求償の実施状況について検査した内容が示されています。
放射性物質汚染対処特措法(2012年1月施行)以降に環境省・農林水産省など8省が直轄または国庫補助金等を交付して行った「特措法3事業」について、11年度~14年度までの4カ年度の事業実施済額の合計は7857億余円。東電への求償額の合計は4605億余円(求償率58・6%)、東電の支払額の合計は3653億余円(支払率79・3%)=15年10月末現在=となっています。
特措法3事業とは、「汚染土壌等の除染等」「汚染廃棄物処理事業」「中間貯蔵施設事業」。この費用の賠償に対して東電が必要となる資金繰りは、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法に基づき、同機構への交付国債の交付・償還で、国が支援することとされています。
また、特措法が施行される前からの緊急除染等のうち、内閣府所管の緊急実施除染事業については11年度~14年度までの4カ年度の事業実施済額の合計は2095億余円。求償額の合計は536億余円(求償率25・6%)、支払額の合計は244億余円(支払率45・5%)=15年10月末現在=となっています。
会計検査院は早急に体制等を整備し東電に対して求償を行うことなどを求めています。
原発事故を引き起こした東電は、公的資金を投じなければ賠償や除染費用も出せないのが経営の実態です。東電が負担するという原則(汚染者負担原則)を基本に、国民の負担を最小化する立場が求められています。
(「しんぶん赤旗」2016年5月10日より転載)