熊本県熊本地方で相次いでいる地震活動は、(2016年)4月14日午後9時26分ごろ発生したマグニチュード(M)6・5の地震を上回るM7・3の地震が16日午前1時25分ごろ発生したほか、阿蘇地方や、さらに隣県の大分県でも強い揺れの地震が発生して被害が拡大するなど複雑化しています。
政府の地震調査委員会が15日にまとめた評価では、14日の地震について、熊本県内を北東から南西に走る布田川・日奈久(ふたがわ・ひなぐ)断層帯のうちの日奈久断層帯の高野―白旗区間がずれて起きたとしました。
“どこでも”
同区間の長さは熊本県益城(ましき)町から宇城(うき)市にかけての約16キロです。しかし、16日のM7・3の地震の震源は宇土(うと)半島(宇土市)に向かって延びる布田川断層に沿った場所です。
地震調査委員会委員長の平田直・東京大学教授は15日夕に開いた記者会見で、(高野―白旗区間)に限らず、九州の中部に近いところは活断層が多く、地下構造の不均質な度合いが強く活発な地震活動が続いていると説明。14日のM6・5の地震に限らず、どこでも起こりうると指摘していました。
北東方向へ
16日未明には同県阿蘇地方で震度6強、朝には大分県中部で震度5弱の地震が起きるなど範囲が広がりました。政府の地震調査研究推進本部が2013年にまとめた九州地域の活断層の長期評価では、日本列島の形成過程で生じた地質構造による「大分―熊本構造線」沿いに、断層帯が分布すると指摘していました。地震はこの範囲で北東方向に続発しています。
地震は布田川断層帯の北東延長線上へ続き、阿蘇地方では午前3時台にM5・8の地震が2回起き、最大震度5強と6強を観測。さらに大分県中部の別府―万年山(はねやま)断層帯付近では午前7時11分、M5・3で最大震度5弱の地震が起きました。
東洋大学の渡辺満久教授(変動地形学)は「阿蘇で発生した地震は地上では断層が見えないが、地下に埋もれている可能性がある」との見方を示しました。日奈久断層帯のうち、熊本県芦北町や水俣市沿岸付近に至る南部については「いつ、どういう形で動くか分からないが懸念される」と話しました。
一方、気象庁の青木元・地震津波監視課長は、熊本地方と阿蘇地方、大分県の3カ所で、別々の地震が発生していると述べ、16日午前1時25分に熊本地方で発生したM7・3の地震がきっかけになった可能性があるとの見方を示しました。
「前震→本震」難しい予測
気象庁は16日、熊本地方で相次いでいる地震について、同日午前1時25分ごろ起こったマグニチュード(M)7・3の地震が本震で14日のM6・5の地震は前震だったと考えていることを明らかにしました。前震は大きな地震(本震)の前に起こる地震のことですが、その後により大きな地震(本震)が起こると予測することは困難とされています。
東日本大震災を引き起こしたM9・0の東北地方太平洋沖地震の場合も、本震の2日前の2011年3月9日に三陸沖の本震の震源から約50キロ北東を震源とするM7・3の地震が発生し、宮城県栗原市などで最大震度5弱の揺れを観測しただけでなく津波も観測。10日にもその近くでM6・8の地震が発生していましたが、それが前震だったとする見方が示されたのは本震が起こった後でした。
16日未明の地震最大1.8メートルのズレ
筑波大学の八木勇治准教授たちは16日、同日未明に熊本県熊本地方で発生したマグニチュード(M)7・3の地震について解析結果を公表しました。それによると、布田川断層帯で地震が発生したように見えるといいます。
幅20キロ、長さ50キロの断層面が、約20秒かけて最大1・8メートルずれたとみられるとしています。
新潟県中越地震に次ぐ余震のペース
気象庁は16日、余震発生ペースが急上昇し、阪神大震災以後の内陸・沿岸で発生した地震のなかで、2004年新潟県中越地震に次ぐ2番目のハイペースとなっていることを明らかにしました。
気象庁の担当者は「規模の大きい地震が複数回発生したことで、余震が増えたのだろう」と話しています。
別府―万年山(はねやま)断層帯 大分県東部の別府湾の海底から大分県西部にかけて東西方向に多数の断層で構成される活断層帯。東端は中央構造線断層帯に連続する可能性があり、両断層帯の関係が検討課題。分布地域は由布岳など活火山が位置し、火山活動とも密接な関係があると考えられています。今後30年間の地震発生確率は最大4%とされ、国内の活断層の中で「高いグループ」に属すとされています。
(「しんぶん赤旗」201年月日より転載)
熊本・大分で激震 被害拡大・・16日未明にM7.3/死者計37人 土砂崩れも
2016年4月16日午前1時25分ごろ、熊本県熊本地方を震源とする地震があり、熊本市や同県菊池市などで震度6強の揺れを観測しました。気象庁によると、震源の深さは約12キロ(暫定値)、地震の規模マグニチュード(M)は7・3(暫定値)と推定され、1995年の阪神大震災級。その後も震度6強などの地震が熊本県や大分県で相次ぎ、深刻な被害が拡大しました。16日に相次いだ地震で28人の死亡が確認され、熊本市内だけで約810人が重軽傷を負いました。県内では9万人超が避難しています。17日にかけて九州北部は大雨と強風が予想され、気象庁は厳重な警戒を呼びかけています。
熊本県益城(ましき)町では14日に震度7の揺れを観測した地震が発生し、県内で9人が死亡。同日以降の死者は計37人となりました。
16日の地震はマグニチュード(M)7・3で、M6・5だった14日の地震より規模が大きくなっています。気象庁は14日の地震が前震で、16日の地震が本震との見解を示しています。今後1週間で、最大震度6程度の激しい地震が発生する恐れがあると注意を呼び掛けました。
県警によると、16日の地震で亡くなった人の死因は、ほとんどが家屋の倒壊などによる圧死とみられます。
熊本県などによると、阿蘇市で家屋が多数倒壊しました。南阿蘇村では大規模な土砂崩れが発生。東海大学農学部学生アパートで11人が生き埋めになり、21歳と18歳の学生が亡くなりました。大分県と阿蘇市を結ぶ国道57号とJR豊肥線、南阿蘇村の阿蘇大橋は崩落しました。
熊本市内の病院では倒壊の恐れが出たため、使用が困難になりました。
国土交通省によると、JR豊肥線の赤水駅(同県阿蘇市)で2両編成の回送列車が脱線しました。乗客はおらず、運転士もけがはありませんでした。
このほか大分県でも、日田市で車に乗った女性(35)が落石に巻き込まれ腰の骨を折るなど17人の負傷者が確認されました。
九州電力によると、熊本、大分、宮崎の各県で一時約20万戸が停電しました。益城町や熊本市内でも断水が続いています。
(「しんぶん赤旗」201年月日より転載)
九州を東西に横断する「大分―熊本構造線」
九州を東西に横断する「大分―熊本構造線」。東の別府湾から西の島原半島にかけて短い活断層が数多く分布しています。この地域は内陸型地震の危険度が高いといわれてきました。
阪神・淡路の大地震に匹敵する4月16日未明の地震は被害をさらに(ひろげました)。山肌が削り落ちた南阿蘇村の土砂災害や大橋の崩落は規模のすさまじさを表しています。建物が次々と押しつぶされ、増えつづける死傷者。一刻も早い捜索と救助を。
熊本の地震は先の構造線に沿って東にも震源を移しています。この地溝帯は四国や紀伊半島を通って関東まで走る中央構造線に連なります。断層が動けば付近のそれも動きやすくなり、どこまで広がるか予測がつきません。
風雨が強まると予報された被災地では、土砂災害の危険がいっそう高まっています。揺れも収まらないなか、身を守ることが最優先です。災害が進行しているいま、拡大を防ぐ対策に政府は力を注ぐべきです。
多くのプレート(岩板)が重なり合い、モザイクのようにつくられた日本列島。地殻の激しい変動は、全国に無数の断層を形成してきました。プレートのずれによる地震も、活断層による地震も、どこでも起きる可能性があります。
日本は地震の活動期に入った、という専門家も多い。これまでの防災は、いつも災害を追いかけてきました。地震や津波、噴火…。私たちは経験や知識によってそれに備える国づくりができるはず。人類のためだけにあるのではない、地球と自然にたいする謙虚さを忘れずに。
(「しんぶん赤旗」2016年4月17日「潮流」より転載)