関西電力高浜原発3、4号機の稼働差し止めを命じた、3月9日の大津地裁仮処分決定から1週間。東日本大震災、東京電力福島原発事故から5年の節目とも重なり、地方紙が原発立地県を中心に「福島の原点に立ち返れ」「重く受け止めよ」と論じたのをはじめ、社説の多くが原発回帰路線への疑問を打ち出しています。
■痛烈な批判
稼働中の原発を運転差し止めにした、全国初の決定です。「原発回帰を進める政府と電力会社への厳しい警告だと受け止めるべきだ」(茨城新聞)、「政府や電力会社に対する拙速の戒めだ」(河北新報)と、なし崩し的な原発再稼働への批判は痛烈です。また、福島のいまだ収束が見通せず多数の被災者が避難している「その過酷な事実から…納得のいく合理的な判断」(京都新聞)、「市民の不安をくみとった画期的な判断」(佐賀新聞)など、“市民目線に立った判断”との評価が相次いでいます。
福島原発事故の徹底究明がないもとでつくられた新規制基準に疑問をつきつけたことにも注目。「『世界一厳しい』と称する新たな規制基準に適合しても、安全性の『お墨付き』と評価しきれない司法の認識」(河北)だとし、政府・電力会社の動きは「新基準を新たな『安全神話』にしようとの思惑をのぞかせる」(新潟日報)と指摘しています。
決定が自治体任せとなっている避難計画の策定に「信義則上の義務」だと国の責任を求めたことについて、「事故の重大性を踏まえた問題提起…政府は謙虚に受け止め(よ)」(京都)、「(川内原発では)『仕組みとして合格点』には無理がある。政府はもっと前面に出るべきだ」(南日本新聞)など、立地県やその近県の各紙から声が上がっています。
■言いがかり
各紙がおおむね今回の決定を国や電力会社への警鐘としてとらえている中で、極めて異質なのが「判例を逸脱した不合理な決定」などとする「読売」「産経」の論調です。1992年の四国電力伊方原発訴訟判決で“安全かどうかの判断は専門家に委ねる”とした判例に、大津地裁決定は反するという言いがかりです。その最高裁判決の下で招いたのが福島原発事故だったことを直視するなら、両紙の主張はまさに「許されぬ安全神話の復活」(「朝日」)というべきです。
(近藤正男)
(「しんぶん赤旗」2016年3月16日より転載)