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海底掘削調査で見えた!・・プレート沈み込みの謎

 プレート(岩板)がひしめき合っている日本列島周辺。太平洋プレートとフィリピン海プレートの境界の海溝に沿って、伊豆諸島から南の米グアム島の方へ延びる全長2800キロメートルの火山密集地帯があります。「伊豆・小笠原・マリアナ弧」(※1  いずおがさわらマリアナとうこ、英: Izu-Bonin-Mariana (IBM) Arc)です。その起源と発達を探るために進められている海底掘削調査で、プレート沈み込みの謎をめぐる意外な発見がありました。

(中村秀生)

 

IBMtouko
文科省のHPより(*1)

 地球の表面は海洋プレートや大陸プレート、十数枚に覆われています。大陸プレートに含まれる大陸地殻の岩石は地球以外の惑星にはほとんど存在せず、なぜ地球に大陸地殻があり、どのように形成されたのかは大きな謎とされています。

 最近の研究で、伊豆・小笠原・マリアナ弧(IBM弧)で海底火山の下に大陸地殻ができ、どんどん成長しているらしいことが、地震波観測から判明。海洋研究開発機構や産業技術総合研究所、金沢大学、オーストラリア国立大学などの国際研究チームが米国の科学掘削船「ジョイデス・レゾリューション」で謎解明に挑みました。27カ国が参加する国際深海科学掘削計画の一環です。

 研究航海は昨年(2014年)3〜9月の半年間に3航海が行われました。IBM弧の東西と、過去にIBM弧と一体だった「九州パラオ海嶺」の西側に位置する「奄美三角海盆」でも海底の掘削が行われました(海底地形図)。掘削試料を分析し、マグマ活動の変化や現在の大陸地殻形成に至る過程を明らかにするのが目的です。

元のシナリオ

 これまで考えられてきたシナリオによると、太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込み始めたのは約5200万年前。それによって引き起こされたマグマ活動でIBM弧が形成されました。2500万年前から1500万年前にかけて、新たなマントル上昇によって海洋底が拡大し、九州パラオ海嶺がIBM弧から分離・移動。現在のような地形ができあがったといいます。

 「奄美三角海盆にはIBM弧ができる前の情報が保存されていて、海底を掘削すれば、プレートが沈み込む前からあった1億2000万年前ごろの古い海洋地殻が出てくるのではないかと考えていました」と話すのは、この海域での研究航海に参加した浜田盛久・海洋機構研究員です。海盆の海洋地殻の上にはIBM弧の火山活動による堆積物が積み重なっているとみられ、プレート沈み込み開始の前後にかけて何が起こったのか、解明をめどしました。

船内の地震波測定装置と浜田盛久さん(提供・海洋研究開発機構)
船内の地震波測定装置と浜田盛久さん(提供・海洋研究開発機構)

予想外の結果

掘削作業の様子(提供:Richard Arculus/オーストラリア国立大学)
掘削作業の様子(提供:Richard Arculus/オーストラリア国立大学)

 掘削作業は、水深4711メートルの海底から堆積物層を貫通して海底下1461メートルの基盤岩に到達。基盤岩を150メートル掘削することに成功しました。

 採取した試料に含まれる放散虫や有孔虫などの化石の年代測定の結果、堆積物層の最下部の年代は5100万〜6400万年前とわかりました。掘削孔で測定した温度などの分析からも海洋地殻の年代が同時期と推定。当初の予想よりはるかに新しい年代でした。

 一方、採取した海洋地殻の玄武岩を化学分析した結果、さらに意外なことがわかりました。世界の海洋底の85%を占める「中央海嶺玄武岩」に似ているものの、微量成分に微妙な違いがみられたのです。この特徴は、プレート沈み込みの開始期にだけ限定的にできてIBM弧の海溝側に噴出した「前弧玄武岩」と一致していました。奄美三角海盆の海洋地殻は、プレート沈み込み開始前からあった中央海嶺玄武岩ではなく、沈み込み開始期にできた前弧玄武岩そのものだったのです。

図5 掘削前の予想と、本掘削によって明らかになった伊豆-小笠原-マリアナ弧の地殻構造の対比。5,200万年前に太平洋プレートの沈み込みが始まり、フィリピン海プレートとの隙間を埋めるように形成されたと考えられている前弧玄武岩は、実際には伊豆-小笠原-マリアナ弧の背弧側にも存在していた(4,800万年~2,500万年前)ことが本掘削により明らかになった。背弧側の玄武岩は、その後2,500万年~1,500万年前の四国海盆・パレスベラ海盆の拡大とそれに伴う九州・パラオ海嶺の移動に伴って現在の奄美三角海盆の位置まで移動してきたと考えられる。(国立研究開発法人海洋研究開発機構のHPより)
図5 掘削前の予想と、本掘削によって明らかになった伊豆-小笠原-マリアナ弧の地殻構造の対比。5,200万年前に太平洋プレートの沈み込みが始まり、フィリピン海プレートとの隙間を埋めるように形成されたと考えられている前弧玄武岩は、実際には伊豆-小笠原-マリアナ弧の背弧側にも存在していた(4,800万年~2,500万年前)ことが本掘削により明らかになった。背弧側の玄武岩は、その後2,500万年~1,500万年前の四国海盆・パレスベラ海盆の拡大とそれに伴う九州・パラオ海嶺の移動に伴って現在の奄美三角海盆の位置まで移動してきたと考えられる。(国立研究開発法人海洋研究開発機構のHPより *1)

自発的に沈む

 前弧玄武岩は、プレート沈み込みの開始期にプレート同士の隙間から噴出したものだと考えられています。奄美三角海盆まで広範囲に分布していることは、プレートの隙間か、これまで考えられてきた数キロメートル〜数十キロメートル程度ではなく、少なくとも250キロメートルという大きなものだったことを示しています。

 プレートの沈み込みをめぐっては、いったん始まってしまえば、自重で引っ張られる力が強くなり、継続的・安定的にプレートが運動することはわかっていましたが、何がきっかけで沈み込みが始まるのかは謎でした。

 研究チームは「5200万年前、プドートは水平方向に引っ張られるように力が加わっており、支えがなくなった太平洋プレートが自重によって″自発的″に沈み込みを始めた証拠だ」と結論づけました。

 この航海の共同主席研究者を務めた石塚治・産総研主任研究員は「もっと古い時代の岩石が出てくると思っていたので、船上で分析結果をみて驚いた。これまでの調査で前弧玄武岩の分布は海溝の深いところの斜面に限られていて、広く分布しているとは思わなかった」と振り返ります。

 研究者たちは今後、日本の深部探査船「ちきゅう」で、できたての大陸地殻そのものを直接採取して、プレートの沈み込み開始後の島弧での大陸地殻の成因を探ることをめざしています。

初の研究航海・・視野広がった

 IBM弧にある火山の一つ、伊豆大島の研究を続けてきた浜田さんにとっては初めての研究航海でした。「島弧の全体の発達には始まりがあって、いずれ終わりがくる。そのライフサイクルのなかで一つの火山があるのだと、自分の視野が広がった」と話しています。

ジョイデス・レゾリューション号と海底掘削した3海域(黄色=星印が奄美三角海盆)。ピンク色の丸印は、ちきゅうによる将来の掘削計画(写真と海底地形の原図は、海洋研究開発機構提供)

pureto15-9-23

 

(「しんぶん赤旗」2015年9月23日より転載 *1=山本雅彦)

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