日本共産党嶺南地区委員会 > しんぶん赤旗 > 川内原発再稼働・・福島事故の教訓忘れた暴挙

川内原発再稼働・・福島事故の教訓忘れた暴挙

川内原発の正門近くから見える原子炉建屋=8月11日午前、鹿児島県薩摩川内市
川内原発の正門近くから見える原子炉建屋=8月11日午前、鹿児島県薩摩川内市

 九州電力川内原発1号機の再稼働強行は、東京電力福島第1原発事故の教訓を忘れた暴挙です。原子力規制委員会の審査を通ったからといって、安全は保証されません。審査の問題点を改めてみました。

(松沼環)

 

 安倍首相は、新規制基準を「世界最高水準」と持ち上げ、「原子力規制委員会が、再稼働に求める安全性を確認した原発は、再稼働を進める」と表明しています。

避難計画除外

 しかし、これは事実を偽るものです。新基準で求めている対策の中身は、既存原発が不適格にならないために、格納容器の設計基準を見直すこともしていません。住民の避難計画も自治体まかせです。

 国際原子力機関(IAEA)は、原発の安全確保のために「5層の防護」の考え方を示しています。第4層が過酷事故対策で、第5層に避難計画が位置づけられています。規制委の田中俊一委員長も就任当初、規制の枠組みについて「防災計画まで入っていないと本当の安全確保の国際的な標準になりません」と認めていたのです。

 避難計画が審査の対象外の新規制基準は、「世界最高レベル」どころか、国際的な標準にすら達していないのです。

 安倍首相は第1次政権時の2006年にも、日本共産党の吉井英勝衆院議員(当時)が原発の地震や津波対策を求めた質問主意書に対し、「原子炉の安全性については、経済産業省が審査し、その審査の妥当性について原子力安全委員会が確認しているものであり、ご指摘のような事態が生じないように安全の確保に万全を期している」と笞えていました。

 安倍首相は福島事故の教訓を忘れています。

火山過小評価

 川内原発の周辺には過去に巨大噴火を起こした火山が複数あります。3万年前の姶良カルデラの噴火で火砕流が到達した可能性を九電が認めています。九電や規制委は、川内原発に火砕流が到達するほどの巨大噴火が今後数十年の間に起きる可能性は「極めて低い」と主張。起きるとしても前兆を把握できると説明しています。

 しかし、多くの火山学者が、巨大噴火は国内で観測の経験がなく、いつどのくらいの噴火が起きるか、予測できないと指摘しています。昨年11月には日本火山学会の委員会が、審査に用いられる「火山影響評価ガイド」の見直しを求める異例の提言を発表したほどです。

 九電は、川内原発に影響を与える火山活動として、破局噴火より一回り規模が小さい約1万3000年前の桜島薩摩噴火と同様の規模の噴火を想定し、最大で15センチ程度の降灰を予想。対策を取ることで、「安全機能は損なわれない」と評価。これに対しても、火山学者などから評価や対策が不十分と指摘がなされています。

ずさんな審査

審査の過程はどうか。電力会社が出した内容の妥当性を判断する際、厳正にチェックしていないことが判明しています。

 新規制基準では、新たに重大事故対策とその有効性評価を電力会社に求めています。電力会社は、全電源喪失や配管破断などを仮定し、コンピユー夕で原子炉の温度や圧力の変化などを計算。消防ホースによる注水などで、大規模な放射性物質の放出を食い止められるかどうかを確認します。

 福島第1原発事故前の原発の審査では、旧原子力安全・保安院などが、クロスチェック(異なる角度からの点検)解析と称し、事業者の解析の妥当性を判断するため、独自の解析を実施していました。しかし、重大事故対策の有効性評価で、クロスチェックは実施されていません。まさに電力会社任せの手抜き審査です。

 規制委は、川内原発の運転開始から30年で行う高経年化(老朽化)技術評価とそれに基づく長期保守管理方針などを8月5日、認可。耐震評価が終わっていない機器もあるため、市民団体から、再稼働の日程合わせのずさんな審査と批判の声が上がっています。

 規制委の田中委員長は、川内原発1、2号機の審査に関連して、事故時に放出される放射性物質の量を「一番厳しい時で5・6テラ(1テラ=1兆)ベクレル」と、まるで上限かのように発言しています。しかし、これは限られた事故シナリオの中で推定されるセシウム137の環境への放出量です。

 しかも、対策が成功した場合の値で、これもクロスチエック解析はなされていません。まさに机上の値です。

 福島第1原発事故前の2010年11月、東京電力も福島第1原発1号機の評価で、炉心溶融(メルトダウン)の確率は1原子炉あたり1億年に3・9回と大変低いとして、高い安全性を誇っていました。しかし、事故は起きました。

 根拠のない「世界最高水準」をはじめとした安全神話をテコにした再稼働は許されません。

 

原発依存は国策誤る道・・立命館大学国際平和ミュージアム名誉館長(放射線防護学)安斎育郎さん

anzai-ikurou
安斎育郎さん

 放射線の専門家として、毎月福島に通って汚染の実態を調べ、被ばくを減らす方法を提言しています。4年後の今も事故原発の内部の様子は不明のまま、汚染水や除染廃棄物の対策も見定めがつかず、子どもの甲状腺がんを含む健康影響に多くの県民が不安をもっています。10万人以上の人が定住生活の見通しのない避難生活を続け、廃炉には10兆円規模の財源と約半世紀の時間が費やされます。

 こんな厄介な原発に依存し続けることが適切かどうか、根本から問われているにもかかわらず、政府と規制委員会は安全性の判断を互いに責任転嫁しつつ「再稼働」に突っ走っています。川内原発再稼働をきっかけに原発依存に回帰することは、国策を誤る道でしょう。

 

過酷事故対策は不十分・・東京大学名誉教授金属材料学)井野博満さん

ino-hiromitu
井野博満さん

 九州電力川内原発1号機の高経年化(老朽化)対策は、大幅な補正申請からわずか1ヵ月の審査で認可しましたが、重要配管の減肉・疲労の耐震性評価で危険箇所が見つかっています。他にも危険な箇所があるのではないか、審査に疑問があります。

 4年以上動かしていなかったことから、トラブルが起こる可能性も懸念されます。

 九電の過酷事故対策は不十分です。限られたシナリオの中での評価であり、九電は、炉心溶融が避けられないとなれば、格納容器に水を張って溶融燃料を受け止めるとしています。水蒸気爆発や水素爆発の危険性があるにもかかわらず、検討が不十分です。既存原発を使い続けるために元の設計をそのままにして、付け足しの対策で済ますのは危険です。

 他の原発も同様の対策で再稼働を進めようとしていますが、福島第1原発事故への反省を著しく欠いています。

(「しんぶん赤旗」2015年8月12日より転載)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です