追加費用なしに風力と太陽光で電気の5割が賄える―。国際エネルギー機関(IEA)が昨年出した報告書は、電力の世界で現在起きている激変を伝えます。原発依存と再生可能エネルギー抑制に進む安倍晋三政権の異常さがみえてきます。
温暖化防止 唯一の選択肢
IEAの報告書のタイトルは「電力の変革」です。内容から、地球温暖化防止には風力と太陽光発電の普及が不可欠であり、そのためには電力システム全体の変革が必要だという意図が読み取れます。
IEA事務局長による序文は“地球の気温上昇を2度未満に抑えるために、われわれには行動を遅らせる余裕はない”と述べます。
報告書は、2度目標を実現するうえで再生エネは「電力部門における唯一の選択肢」だと強調。再生エネの大半を占めるのが風力と太陽光だといいます。
風力と太陽光の出力は季節や天候で変動します。報告書は、変動する再生エネの普及には、既存の電源に再生エネを付け加えるという従来の発想ではなく、電カシステム全体を変革するという「観点の変更」が必要だといいます。
一方、安倍政権が昨年決定した「エネルギー基本計画」は、火力や原発を従来型の3類型の電源(表)に当てはめ、風力と太陽光は3類型に付け加えられる“おまけ”の位置づけです。
安倍政権はまた、大量の二酸化炭素を排出する石炭火力発電を原発と並ぶ重要なベースロード(ベース)電源と位置づけます。IEA報告書は“二酸化炭素排出が多く、柔軟性のないベース電源は低炭素化目標に合致しない”と指摘します。明示はしていないものの、石炭発電を指しているとみられます。
追加費用なし 電力価格の引き下げも
20年間で大きな技術改良
日本の財界は、再生エネは「非効率、不安定、高コスト」だといい、大幅な導入に反対しています。安倍政権が今月決定した「長期エネルギー需給見通し」も、財界の意向を反映し、2030年の電源構成に占める風力と太陽光の割合を8・7%に抑えました。
これに対し、IEA報告書は、風力と太陽光は過去20年間で大きな費用低減と技術改良を実現したと指摘します。風力と太陽光を45%まで高めることは「長期的には費用の大きな増加なしで実現できる」といいます。
「長期的には追加費用はゼロとなる可能性がある」「普及が全く進まない場合より費用を低減できる可能性もある」との記述も。日本は水力が約1割を占めているため、IEAの想定を当てはめると6割近い電力を追加費用なしで再生エネで賄えることになります。
報告書は、再生エネが電力の市場価格を引き下げる効果にも注目します。効果は「多くの欧州市場で確認できる」とし、ドイツでは07~10年の間に1メガワット時あたり平均5~6ユーロ(約675~810円)ほど価格を下げたといいます。
再生エネは不安定か。報告書は、電力需要が常に変化している上、全ての電源は予期できない事故停止を起こすため、風力や太陽光の変動性は「電力システムにおいては新しいことではない」といいます。既存の電力システムの柔軟性を考えれば、現状の設備でも25~40%の導入は可能だといいます。
ベース電源は縮小の一途
報告書は、風力と太陽光の普及が進むと、先進国のように電力需要の伸びない地域では既存の電源との間で電力需要の奪い合いが起こり、価格競争によって燃料費が高い電源が市場から撤退していくと分析します。
また、風力と太陽光の変動性に合わせるため、火力など既存の電源は大幅な出力調整と起動停止が必要になると指摘します。出力調整のできないベース電源の比率が減り、調整が容易なピーク電源とミドル電源が増えていくといいます。
安倍政権は逆に、ベース電源を現在の4割から6割に引き上げるとし、そのための電源として原発と石炭を重視しています。
報告書は、出力調整の回数増加による費用負担を小さくするには、柔軟性の低い電源から高い電源への置き換えが必要だと指摘します。原発と石炭は一般に柔軟性が低いとされます。
報告書は、風力と太陽光の導入率が一定水準を超えると「ベース電源はもはや費用効果的ではなくなる」と結論付けています。
報告書はまた、電力需要が伸びている途上国では、電力システムを再生エネに適した形で設計することで、再生エネの普及がスムーズに進む可能性があるといいます。
安倍政権が進める原発や石炭発電輸出は、安全面や環境面での悪影響だけでなく、途上国の電力システム設計をゆがめることにつながります。途上国での再生エネの普及を妨げ、発展を阻害します。
(「しんぶん赤旗」2015年7月28日より転載)