原子力規制委員会が四国電力伊方原発3号機(愛媛県)について規制基準に適合するとの審査書を7月15日決定し、これを受け菅義偉官房長官が安倍晋三政権として「再稼働を進める」ことを明らかにしました。規制委の審査書決定は九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)に続き3例目です。高浜原発については福井地裁が再稼働を差し止める仮処分を決定しています。司法の判断さえかえりみず再稼働を進める規制委と政府の責任は重大です。伊方原発も地震対策や避難体制の不備が指摘されており、道理のなさは明白です。
住民の懸念に応えない
愛媛県西部の佐田(さだ)岬半島の付け根付近にある伊方原発は、日本有数の断層帯である中央構造線断層帯に近く、将来起きる可能性が高い南海トラフ巨大地震の震源域のなかにもあり、地震などの際には周辺で地すべりが発生する危険性もあります。原子力規制委の審査書案には、大地震の危険や事故の際に原子炉の爆発を防ぐフィルター付きのベント施設が完成していないことなどを懸念する意見が寄せられましたが、規制委はそうした指摘を振り切って合格を決めました。規制委が審査の基準とする規制基準の不備と、住民の懸念を無視して合格を決める審査の無責任ぶりを浮き彫りにしています。
もともと規制委の審査基準は、東京電力福島原発事故の後、地震や津波の基準を見直し、事故が起きた場合の対策を盛り込んだものですが、あくまで当座の措置で、想定以上の地震や津波が起きないことを保証したものではありません。川内原発の場合も火山噴火への対策がないことが大問題になりました。高浜原発の場合は福井地裁が規制基準の不備を認め、再稼働を認めない仮処分決定を出しました。基準の欠陥があきらかになってもなお審査を進め、合格した原発を再稼働させようなどというのは、国民の命と暮らしをまったくかえりみないものです。
原子力規制委の規制基準の欠陥の最たるものは、重大事故が起きることを想定しながら、住民の避難計画はまったく審査の対象にせず、自治体任せ、住民任せにしていることです。半島の付け根の伊方原発の場合とりわけ深刻です。
原発から先の半島部には約5000人が暮らしていますが、事故が起きれば逃げ場がなくなり、船を使って本州や九州へ逃げるか、ヘリコプターなどを使って避難するかしかなくなります。悪天候の場合など避難の実効性の保証はありません。それでもなお、審査に合格したから再稼働させるなどというのは無謀のきわみです。
「原発回帰」は許されない
原子力規制委の田中俊一委員長は、規制基準にもとづく審査は「安全性を保証するものではない」と再三発言してきました。にもかかわらず安倍政権は「規制委の審査に合格した原発は再稼働させる」としてきました。責任を押し付けあう無責任な姿勢にも、再稼働の道理のなさはあきらかです。
電力業界は川内原発1号機を先頭に再稼働を急いでおり、安倍政権は2030年度の電源構成は原発に22~20%依存する計画を正式に決め、推進しています。電力業界いいなりで国民の安全を無視した「原発回帰」を許さない、国民の世論と運動が求められています。
(「しんぶん赤旗」2015年7月20日より転載)