今年(2014年)の5月30日深夜、石川県内だけで放送されたテレビ金沢制作のドキュメンタリー番組が、日本民間放送連盟賞のテレビ報道部門優秀賞に輝きました。「シカとスズ〜勝者なき原発の町」。原発が地域に何をもたらしたのか、粘り強い取材に映像の蓄積を加えて描き出したスタッフこん身の一作です。
(佐藤研二)
番組タイトルの「シカ」は県内唯一の原発を抱える志賀町、「スズ」は2003年に原発建設計画が白紙になった珠洲市のこと。片や740億円におよぶ″原発マネー″で立派な施設が並び、片や30年近く、市民どうしが賛成派・反対派に分かれて争いました。
事実と証言で
原発をめぐる二つの自治体の過去と現在を、福島第1原発事故後の「変化」も織り込みながら対比させます。プロデューサーの金本進一さん(報道部長)は「3年前の原発事故を、志賀や珠洲の人たちはどう考えているのか。地元のメディアとして、今年こそ原発をテーマに番組をつくりたかった」と語ります。
金本さんらスタッフが取材で心を砕いたのは、「原発へのスタンスではなく、歴史の事実と住民の証言を積み上げて構成する」こと。過去に自社制作した原発関連番組を大勢のスタッフで見るなどして検討を深めました。
取材に当たったディレクターの岡木達生記者によると「住民の口は重く、映像取材は根気のいる作業でした」。そんな中、志賀町民200人に実施した電話アンケート(図)で、「住民の意外な考えが垣間見えた」と言います。
原発再稼働について容認が反対を若干上回っていますが、「今後のまちづくりについて」の設問では、「原発から徐々に自立していくべき(49%)」「ただちに原発に頼らないまちづくりを(35・5%)」が、「今後とも原発と共存(14%)」を圧倒しています。
未来への動き
番組は、福島の事故の影響などで原発の運転停止状態が長期化している志賀町の現実も映しだします。作業員が利用する地元商店の経営に影を落とし、原発マネーでつくった施設の維持費も町財政の重荷になっていました。
原発に頼らないまちづくりに踏み出した志賀町の建設会社の経営者は、こう振り返ります。「お金だけもらったことで、自分たちがやるべきことを見失った時期があった。
(全国では)原発がない町の方が多いのだから」
原発が来なかった珠洲市では、いまも対立の傷痕を残し、過疎も止まっていません。しかし、反対運動に半生をささげた女性は、「ここでは汚染されていない自然が残っているし、収穫されたものも安心して食べられる。きっと豊かに生きられる」と語ります。
金本さんは、こうした「未来への動き」に期待を込めます。「安倍政権は原発の再稼働に向かっています。しかし、地元の人がどんな思いで原発を受け入れたのか、どれだけほんろうされ続けてきたか。その歴史を、電力を消費する都会の人にも知って判断してほしいと思います」
◇「シカとスズ」は12月21日(深夜0・59)、日本系「ドキュメント,14」で放送します。
(「しんぶん赤旗」2014年12月7日より転載)