「思いやりがあり、そして正しいことは正しい、間違ったことには違うと言える子ども」。福島県いわき市で保育士をする草野美由紀さん(47)の子ども観です。
「子どもが好きで保育士になって27年。背中にいつ爆発するのか心配な原発を背負って暮らす3年8ヵ月でした」と言います。
■訓練の成果確認
「3・11]」。その日、子どもたちはパニックになることもなく冷静にテーブルの下に潜り込むなど避難行動を取りました。揺れが収まってから園底に出て退避しました。雪が降りだし、保育園のホールに移動しておやつとオニギリをとりました。
「子どもたちは騒ぐことなく親の迎えを待ちました」と、月1回実施してきた訓練の成果を確認できました。
福島第1原発が爆発。3月14日、保育園は休園になりました。
当時、小学2年、小学5年、高校1年、大学入学が決まった長女の4人の子どもたちと兄の家のある山梨県や長女が下宿する東京に避難しました。
休園は2週間で解除になり保育業務に復帰しました。県外などに避難した人たちが多く園児は数人でしたが、徐々に戻ってきました。
園底での遊びや、自然の中で体を使っていっぱい遊ぶ園外活動は制限されました。
「約7ヵ月は外に出ずに屋内生活でした」。現在は、放射線量を測定して安全を確認した場所で行っています。
子どもたちの食事は、地元の食材を使っていましたが、今はすべて県外から入手しています。乳児にはペットボトルの水を持参してもらっています。
草野さんは「子どもたちの育ちに障害になっています」と、原発事故がもたらした子どもへの影響に心を痛めています。
「こんなにできなかったのかなぁ」と感じるほど登り棒に登れない子どもが増えています。子どもの体力の衰えが見られます。
原発事故は、保育園が掲げる「豊かな人間性を持った子どもの育成や健康、安全で情緒安定した生活ができる環境を用意し、健全な心身の発達」などの目標を阻害。園と保育士スタッフは懸命に努力し、元の保育環境に戻す取り組みを進めています。
■政策目標に共感
国と東京電力に原状回復と損害賠償を求めたいわき市民訴訟の原告に加わりました。
子どもの健康維持のための施策や発病した場合に安心して治療が受けられるようにすることなど、訴訟で勝ち取る五つの政策目標に共感したからです。
「原発事故による放射線量のことをいつも考えながら生活しているいわき市民の感覚と安倍内閣の閣僚たちの言動や感覚は乖離(かいり)しすぎています」と批判します。「私たち国民のことを考えて政治をやっているのでしょうか。東電の株を持っていて恥じない感覚は容認できません」
草野さんは言います。「重いストレスがついて回ります。放射能がなかったらどんなに清々するか計り知れません。除染を早くきちっとやってほしい。再稼働反対です。原発ゼロにすべきです」
(菅野尚夫)
(「しんぶん赤旗」2014年11月28日より転載)